付き合いで借りた借入金の債務免除益

2020.9.3 事業遂行上、付き合いで借り入れをすることもある。

では、その「事業遂行上の付き合い借り入れ」について債務免除されたら、所得区分はなんですか?

農家と農協の債務免除益の所得区分について、の続きです。本件の判決、一時所得には疑問が残ります。


平成26年(行ワ)第649号 所得税更正処分等取り消し請求事件(裁判所HPより)
→ https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/350/088350_hanrei.pdf

1,あらすじ

あらすじ:農家さんが、農協との付き合いで借り入れを行い、農協不利な根抵当権解除を行わせ、農家さんが返済約束を守らず、農協から「破綻懸念先」とされ、挙げ句の果てに農協の事情がどうしようもなくなって残債を債務免除した。

(農協の杜撰さも悪いよ!T係長が農家さんにすり寄りすぎたんじゃ?)

2,債務免除益の所得区分

この債務免除益は、詳細により所得区分を分けるべきであるが、

取引先との関係性にも左右されるけど、一般的には事業所得では??(本件は不動産所得上の借り入れがあるので、その部分は不動産所得に該当)

付き合い借入金の最終的な使途が農地の転売だったとしたとしても、相手先が濃密な関係にあった農協なのであるから、農業所得と無関係ではない。農業経営上の付き合いで借りたのだから、その借入金が農業の用に供されたかの紐付けの必要性が無い、とおのでらは思う。

生活費を借りて債務免除、みたいなことと違うでしょ。

だから、裁判所が「一時所得です」というのは違うと思います!

3,借入金が収入経費にならない理由。純資産の観点

本件33頁。

裁判所は、借入金が収入にも経費にもならない理由を述べている。

所得税法において,借入金が借主の所得とされていないのは,

借入金を取得すると同時に,当該借入金を弁済する債務を負い,
借主の純資産が増加しないことによるものと解されるところ,

上記債務が免除された場合には,借入金額とそれまでの弁済額の差額について純資産が増加することになり,当該差額が所得として観念されることになるのであるから,

借入金の債務免除益の所得区分の判断に当たっては,
当該借入れの目的や当該借入金の取得に係る経済的利益の性質をおよそ考慮する必要がないとするのは相当ではない。

4、本件所得区分の裁判所の判断基準

(1)不動産所得としなかった判断

本件35頁。

当初は農地を購入するために1200万円を借り入れ、農地を購入した。

5年後、農地を転用してその土地の上でアパート経営を始めた。この1200万円の借入金の債務免除が発生した場合には、債務免除益はなに所得ですか。

裁判所の答え:不動産所得とは認められない。

・・・当初の借り入れの目的が農地取得で、結果としてその土地がアパート経営に使われたのだから不動産所得ではない、という。
裁判所は、不動産貸付業務の遂行との関連性で判断したようです。

上記借入金は,原告の不動産貸付業務の遂行に関わりなく借り入れられたものであることが否定できない。
したがって,本件借入金のうち順号4の借入金債務の返済に充てられた部分に係る債務免除益が原告の不動産貸付業務の遂行と関連性を有するものとは認められない。

不動産貸付業務の遂行とは関わりなく借り入れられた金銭により購入された農地が,

結果として不動産貸付業務に供されたにすぎない可能性があることからすれば,

上記借入金をもって購入された農地が,その後不動産貸付業務に利用されているという事実のみをもって,上記借入金が不動産貸付業務の遂行と関連性を有するということはできない。

(2)事業所得としなかった判断

本件38頁

裁判所の判断を意訳しますと、「農協の不良債権処理のために農協からの依頼に応じて農地を購入した借入金について検討する。」

裁判所(意訳)「事業の遂行と関連性が有しない借入金は、事業所得該当性がない。だから、その借入金の約定利息や遅延損害金が事業所得として計上されてても関係ない。税理士が作った帳簿?それがどうしたの。」

引用は以下です。

当該農地が,事業(農業)の遂行とは関わりなく借り入れられた金銭により購入されたものであり,

結果として事業(農業)の用に供されたにすぎない可能性がある以上,上記借入金が事業の遂行と関連性を有するということはできない。

また,被告は,本件借入金に係る平成20年分の約定利息及び遅延利息の合計額の全額が,原告の同年分の事業所得の総勘定元帳に記載され,事業所得の金額の計算上必要経費の額に算入されているなどと主張するが,

そもそも約定利息及び遅延損害金が事業所得として総勘定元帳に記載されていること自体が適切でない可能性が否定できない。

5,おのでらは事業所得に一票

農協からの付き合い借入金のゴネ債務免除益は事業所得であるべきだったと、おのでらは思います!(え、誰もおのでらの意見は聞いていないですか!さみしい)

(農協とは、農家の協同組合です)

農業所得との兼ね合いがなければ貸さない金だったわけでしょ。農業の用に供していなくても、関連性はあるよ。農地は耕すための土地なのであるから(現在は畑作放棄地になっていたり、後で転用されているとしても、ですよ。)

農協の事情ファーストとはいえ、農地を買うために借りて、農地を購入しているでしょ。

会員だから事情によっては配当所得もあり得たのでは。

6,課税庁もちょっと悪い

課税庁が一時所得で更正処分をしたのが誤りだったわけで。

確かに、訴訟になってから、課税庁が「やっぱり、雑所得にします」と後出しは良くないけど、訴訟になって分かる真実もあるのでは。

(争点主義、総額主義の違いってこれのこと?)

7,私が一時所得ではないと考えた理由

本件、農協の事情に精通する農家さんが借り入れ返済をゴネて、約束を守らず、農協合併の事情も知り得ている訳で、「たまたま・ラッキー(継続性なく対価性がないため一時所得)」で債務免除になったと思えないのであるが・・・。

・一時所得とは@裁判所

裁判所は言う。

一時所得は、

①営利を目的とする経済的行為から生じた所得以外の一時の所得であること(非継続性要件)

②労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものであること(非対価性要件)

が必要である、と裁判所。

はい、そうですね。

確かに、農家さんは最初から債務免除益を狙って借り入れていた訳ではない。

農地を転売するための購入代金用立て目的で借り入れた借入金もある。

・農家が一時所得だという理由

E農協の不良債権処理のために土地の有効利用をした、と農家さんは言っている。

地域農民のために貢献してきたし、何かの見返りのための債務免除ではない、和解のための債務免除だ、和解のための債務免除は一時所得だ、と農家さんは言っている。(17頁から18頁あたり)

そういう解釈もあると思いますが。

・おのでらは一時所得ではないと考える

1000万円返済で残債を債務免除してくれそうだったのに、弁護士が出てきたら1億3000万円返済で残債債務免除に応じているあたり、

「たまたま・ラッキー」の債務免除とは思えない。(法人からの贈与ともわたしは考えていない。見返りがあるから)

一時所得であれば、所得を1/2で判断するので納税者有利です。

債務免除益のうち不動産所得に計上分が約5300万円。

債務免除益のうち一時所得に計上分が約3億0770万円、特別控除50万円を控除し、残額に1/2をして1億8800万円が一時所得の金額となった。

債務免除益について。既に借り入れた金銭は何かに使っていて経費計上なり取得費として収入から控除されている。本判例を持ち出して債務免除益の一時所得をやり出したら課税逃れが発生してしまわないかしら。

本件の場合、農家という立場だから農協のウラ事情をよく知っていて有利な交渉が可能だったわけで、債務免除益は事業所得が妥当だったのでは。

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多くの農地は農地法3条で購入後、農地転用して同族F社・同族O社に転売された。農地がかなり減ったね!ぐんまちゃんは泣いちゃうよ。

投稿者: 小野寺 美奈

税理士。農業経営アドバイザー試験合格者。認定経営革新等支援機関。相続診断士。FP。 川崎市・東京多摩地方を中心にした、地域密着・現場主義。 税務の記事はご自身で税法を確認されるか個別に有料相談に来てくださいね。