2019.5.20 日経で、市民農園を紹介しています。売却すればかなりの金額になる都会の農地を持ち続けてくれるのなら、人に貸すのではなく耕してほしい!そのご苦労に対して税制上の配慮があるのではないでしょうか。
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1、地方の農地、都会の農地
市民農園は、畑作放棄地を市民に開放して若い世代の農業の担い手への広告という性質も持ち合わせているのだ、という記事を見かけました。
これは、地方の農地のことを指していると思います。
一方、都会の農地はどうでしょうか?売却すればかなりの金額になる都会の農地について、どのように考えればよいのでしょうか?
農地法により、農地はその利用に厳しい制限があります。その制限と引き換えに、農地に対して税制面では配慮をしています。農地は食べ物ですから、特殊なのです。
2、都会の農地。税制上の配慮の意味
都会の農地は、耕作者主義を貫くべきだと私は考えます!なぜなら、貸すだけなのであれば相続税法上の配慮は不要だからです。
生産緑地の農地は、農家さんが汗かいて耕しても、簡単には儲からない農業(天候に左右、有事の際には拠出)だから税制上の配慮をしていたはずです。
都会の農地である生産緑地は、その特性として社会環境の変化で分断された農地ですから作業効率が悪く収益性が低いことが多いです。
生産緑地は、都市化している環境下では後継者の選択肢が広がり担い手不足となっていること、農地の時価が上昇した外部的要因も考慮しなければなりません。
ところで、生産緑地法2022年の買い取り請求の際に、土地価格の暴落が懸念されたことや市町村の財政不足という理由で、都会の農地を存続させようという動きがありました。
その一環で、生産緑地の農地を一定の条件下で市民農園として利用しても、農地扱いで農地税制の優遇規定を受けられることになりました。
市民農園は、利用する市民は楽しめますが数が限られます。
市民農園は、流通する農作物は減少します。
市民農園は、街で育つ農作物を街の人がいただくということが出来なくなります。近隣住民全体で都市農地を応援することができなくなります。
そうした一握りの方(農園利用者と農地所有者)に恩恵がある財産について、税制上の配慮を行うことは果たして課税の公平性が保たれているのでしょうか?
従来通り、みんなのための農作物を生む農地についてのみ、税制上の配慮を続けるべきです。貸すだけであれば、税制上の配慮は必要ありません。
農地を売りたくないなら、耕してよ!
例えば、担い手がいない農地は、安価な市町村への売却を条件に、現行の農地を売却した場合の譲渡所得税の特別控除の規模拡大や納税猶予は免除(軽減)、などなど、改正の方法はあります。
都会の農地の存続を、税制が邪魔している部分があるのです。
3、耕作者主義とは。農地法
農地法の目的は以下の通り。私は大好きなのです農地法が!税の基本的な考え方と合致している気がします。
農地法は、昭和27年に創設されたようです。その後、農地関連法案は時代に合わせて作られていきます。
日本には農地がたくさんないので、大事に使いましょう。そのために耕作する方を大事にしましょう。農地を勝手に売るな。という法律です。
農地法(目的)第一条 この法律は、国内の農業生産の基盤である農地が現在及び将来における国民のための限られた資源であり、かつ、地域における貴重な資源であることにかんがみ、耕作者自らによる農地の所有が果たしてきている重要な役割も踏まえつつ、農地を農地以外のものにすることを規制するとともに、農地を効率的に利用する耕作者による地域との調和に配慮した農地についての権利の取得を促進し、及び農地の利用関係を調整し、並びに農地の農業上の利用を確保するための措置を講ずることにより、耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大を図り、もつて国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的とする。
4、農地の納税猶予の制度趣旨
農地の相続税は、厳しい要件下で相当の税制上の配慮をしています。(固定資産税も同様です)
さて、その農地の相続税の納税猶予の制度趣旨はどうなっているでしょうか?
昭和50年に創設された農地の納税猶予の制度趣旨は、農業経営の細分化防止のためだったようです。農地法の耕作者主義の精神が重視されていることが分かります。(小規模宅地等の特例創設時に議論されて別の法律として創設されました。)
農地の相続税の納税猶予は、ご遺族が農地を耕すのであれば相続税はオマケしときます、といった制度です。その後、都市農業については他の農地関連の法律との均衡をとりつつ農地の納税猶予制度が整備されていきます。
ア 相続税納税猶予制度の創設(昭和 50 年) 昭和 50 年度の税制改正により、農業経営の細分化を防止するために、全ての農地を対 象として、自ら農業経営を継続する相続人を税制面から支援する「相続税納税猶予制度」 が創設された。
これは、農地価格の上昇に伴い、相続税課税上の評価額が上昇したこと を背景に、農地を農業目的で使用している限りにおいては到底実現しない高い評価額に より相続税が課税されてしまうと、農業を継続したくても相続税を払うために農地を売 却せざるを得ないという問題が生じるようになったためである
立法と調査 2017.11 NO.394 都市農地の保全と有効利用
― 都市農地の貸借に関する制度と課題 ―
田辺 真裕子 (農林水産委員会調査室)より PDF→ http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2017pdf/20171109033.pdf
5、生産緑地法の制度趣旨
都会の農地について定められた生産緑地法という法律があります。
生産緑地法の目的は、良好な都市環境の形成、とあります。
生産緑地法は昭和49年に創設、平成3年に改正生産緑地法(それ以前にもありました)の改正当時、都会の時価がどんどん上がっている状況下でした。
農振法により、税制上、都会の農地は農地扱いとしないという考え方がありました。そこで、土地利用に制限を設ける条件で、都会の農地を農地扱いとしました。生産緑地法のおかげで都会の農地がなんとか残っているのだと思います。
もし、この法律がなければ、現在の都市農地は固定資産税と相続税で売却せざるを得なかったと思います。
生産緑地法(目的)第一条 この法律は、生産緑地地区に関する都市計画に関し必要な事項を定めることにより、農林漁業との調整を図りつつ、良好な都市環境の形成に資することを目的とする。
6、都会の市民農園 関連法律
このごろ市民農園の利用が話題になるように思います。
これは、都市農地の賃借の円滑化に関する法律が平成30年(2018年)9月から施行されたからです。
都市農地の貸借の円滑化に関する法律は、農地法の制限により都市農地の利用制限を一部緩和しましょう、といった法律です。このため、都市農地で市民農園が開園できるようになりました。(といっても、厳密な制限が存在します)
都市農地の貸借の円滑化に関する法律
(目的)
第一条 この法律は、都市農地の貸借の円滑化のための措置を講ずることにより、都市農地の有効な活用を図り、
もって都市農業の健全な発展に寄与するとともに、都市農業の有する機能の発揮を通じて都市住民の生活の向上に資することを目的とする。
参議院HPより 都市農地の貸借の円滑化に関する法律 PDF → http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/196/pdf/s0801960431960.pdf
7、終わりに
市民農園を農地法から理解しようとすることは無理があるのですが・・・。関連法案から時代を読んでみました!私にはまだまだ難しいです。
農地は、私有財産に関する制限(農地の利用制限)とその公共性との関係で税制上の配慮があると私は考えています。
そうすると、「貸してるだけの生産緑地農地(市民農園)」が農地税制の適用となることに違和感があります。
どのような農地税制が、農地の公共性に配慮し、かつ納税者間の公平性を保てるのでしょうか。