ハンセン病問題の検証会議の報告書ほか

2024.3某日 東京都東村山市のハンセン病資料館へ行き、人権について考えました。

こちらの、ハンセン病の記事の続きです。

https://mina-office.com/2024/05/01/hannsen-rekishi/

・光田医師についてのヤフーニュース

ヤフーの光田医師についてインターネット検索していたところ、興味深い記事を見つけました。2019年6月、大学の非常勤講師の方が書かれた記事です。

ハンセン病家族訴訟判決と「救らいの父」光田健輔(坂東太郎) – エキスパート – Yahoo!ニュース

光田健輔医師は病理医・皮膚科医で1876年生まれ。没年は1964年。みんなが嫌がったハンセン病の研究を行い、生涯を撲滅のために捧げた、という表現をされていることもあります。国家賠償の裁判では批判されていますが、後から思えば最善ではなかった・不適切だったこともあったけれども、全否定できないなぁと私個人は思いました。

光田医師は、ハンセン病患者同士の結婚の条件として断種手術を行ったことは違法性を認識していて、「告訴されれば自分が刑務所にいくまでだ」、と覚悟の上であったとWikipediaには記載がありました。

光田健輔 – Wikipedia

論文も見つけました。福山大学 大学教育論叢より

13-2.論文(吉崎)光田健輔.pdf

・ハンセン病問題に関する検証会議 最終報告書

こちらの検証会議は、人権侵害の実態についての検証を行い再発防止のための提言です。

ハンセン病患者に対する隔離施策が長期間にわたって続けられた原因、それによる人権侵害の実態について、医学的背景、社会的背景、ハンセン病療養所における処置、「らい予防法」などの法令等、多方面から科学的、歴史的に検証を行い、再発防止のために提言を行うこと。

財団法人日弁連法務研究財団。弁護士会の他、税理士会・司法書士会などの協力を得て設立された団体です。

ハンセン病問題に関する検証会議 最終報告書 | 公益財団法人 日弁連法務研究財団 (jlf.or.jp)

要約概要、全部で122頁。辛い話ばかりでしたが、読みました。

Microsoft Word – .v…..\…doc (jlf.or.jp)

・公共の福祉で居住の自由を奪えるか

PDF64頁からの備忘引用

法学者の見解によれば、憲法の「公共の福祉」のために感染者から居住の自由を制限しえない、としているようでした。

私は思うけど、ひとりぼっちで暮らしているわけじゃないし、法律で人の心をなんでも解決できるわけではないです。法律が助けにはなるけど、相手の感情をもつれさせたり邪魔することもあります。

法律の良い作用もあります。

沖縄の話のように、らい予防法の廃止前には拒否された老人会入会が、法律廃止になり次第早期に入会できたことからしても、法律の存在はみんなの理解を得やすいことが分かります。「強制隔離って法律に書いてあるから入会して良いとは思わない」→「強制隔離の法律が無くなって阻害要因がなくなったからOK」だったのかしら。

六 法学界の対応
法学界では、個々の研究者のレベルにおいても、らい予防法が合憲との政府見解が疑われることはなかった。また憲法違反という観点から、らい予防法の改正について理論的な検討が加えられるということもなかった。

法学者の見解をみると、憲法学では、「公共の福祉」の要請があれば基本的人権を一般的に制限しうるとする通説は、これと軌を一にする判例と共に、らい法制を支えたと思われる。この通説に対しては、人権相互間の矛盾衝突を調整する原理としての実質的公平の原理と捉える説
(宮沢俊義)がある。この説に立てば、伝染病から守られる利益など、厳密に権利といえないが保護される一般的利益は厳密に人権と言い切ってよいかの疑義が残り、伝染病者ないし伝染を疑われる者の居住移転の自由を公共の福祉では制限し得ないことになる。

また特別権力関係論における3つの原則、(ⅰ)特別権力の主体は命令権・懲戒権などの包括的支配権を与えられ、個々の場合に法律の根拠なくして当該関係に属する者を包括的に支配できる、(ⅱ)特別権力の主体はそれに服する者に対して、一般国民として保障される権利・自由
を法律の根拠なくして制限することができる、(ⅲ)特別権力の主体がそれに服する者に対して行う行為は、支配権の発動であるから、原則として司法審査は排除される、はらい法制を直接的に支えたものと思われる。

行政法学では、直接強制と即時強制の区別は流動的で、現実にはオーバーラップしている場合がある。直接強制を含む、行政上の強制執行につき、戦前は一般法として行政執行法があったが、戦後は、人権侵害のおそれが強いと反省が加えられ、行政執行法は廃止、これに代わる
行政代執行法が制定され、直接強制は、個々の法令で例外的に認められることになった。「非代替的作為義務や作為義務の履行に付いては一般法は存在せず、個別の法律が必要に応じて規定しているにとどまる(…直接強制については…らい予防法6条等)。」(小高剛)との見解がみられる

・権利擁護はいいけど、権利主張はイヤ

78頁から備忘引用

私は思うけど、「他人のためにあなたの権利を我慢してくれてありがとう」という気持ちが国民感情にフィットしやすいんだと思います。

「権利侵害されたから、損害賠償」と言うと、反感をかいがちなようです。とある毎年宿泊利用していたホテルから入宿を断られ抗議した、という事件があり、結果的にホテルが謝罪し、廃業したので話がこじれてしまった。

最初は元患者さんに同情的だった世論。ホテルが廃業したことで元患者さんをやり玉にあげ、生活保障その他についてやっかむ人が出てきてしまった。これは2003年の出来事。平成15年、ほんの20年ほど前の出来事です。

「(温泉旅館宿泊なんてとてもできない自分が?)苦しい中から負担した税金で保障したのに」と読み取れる内容は私はその心情を否定できませんでした。生活被扶助者の外出に言及する意図はなかったと感じました。

人生の自由選択を阻害されたことへの配慮は必要だと私は思います。「私の税金で~」と投書された方は、強制隔離について無知ゆえの妬みなだけだったのかもしれない。他人への配慮する余裕がないほどギリギリの生活をしている方もいます。すべてを元患者への中傷と捉えないでもらいたいなと思いました。(わたしの大変さも分かちあって欲しい、なのかもなって)

差別・偏見に対する闘いでも多くの問題が残された。回復者たちが同情されるべき存在として控えめに暮らす限りにおいては、この社会は同情し、理解を示す。しかし、強いられている忍従に対して立ち上がろうとすると、社会はそれに理解を示さない。逆にこれに反発し、とき
には敵意さえも示す。「無癩県運動」等によって人々の心の奥底に植え付けられた、この「同情」論と表裏一体の「差別意識のない差別・偏見」を人権論の観点から打ち破るのは法律家の役割だが、アイスターホテル宿泊拒否事件等で浮き彫りになったのは、この責任が果たされてこなかったという事実である。法学界もほとんど沈黙に近い状態を続けている。

 

投稿者: 小野寺 美奈

税理士。農業経営アドバイザー試験合格者。認定経営革新等支援機関。相続診断士。FP。 川崎市・東京多摩地方を中心にした、地域密着・現場主義。 税務の記事はご自身で税法を確認されるか個別に有料相談に来てくださいね。