未経過の固定資産税について

2020.7.12 不動産を売買した際に、固定資産税を日割り精算することがよくあります。この日割り精算した固定資産税(以下、未経過固定資産税といいます)は、売買価格扱いなのですが・・・。ヘンだよね?

1,税務取り扱い

固定資産税は、その年1月1日の資産の所有者に対し課される地方税です。

(1)受け取った未経過固定資産税

売主が受け取った未経過固定資産税は、売買契約書の売買代金とは別に受領した場合でも、譲渡所得の総収入金額として計上せよ。というのが取り扱いです。

(国税庁HPより 譲渡所得の質疑応答事例 「未経過固定資産税等に相当する額の支払いを受けた場合)→ https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/03/10.htm

所得税法36条を文末に引用しときます~。

(2)支払った未経過固定資産税

買主が支払った未経過固定資産税は、売買契約書の売買代金とは別に支払った場合でも、購入金額に含める、というのが取り扱いです。

賃貸用アパートを購入した場合など、不動産所得の「租税公課」で経費計上したいところですがNGだそうです。

(国税庁HP 質疑応答事例 賃貸用アパートを購入した際に支払った固定資産税等の清算金の取り扱いについて)→ https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/04/29.htm

所得税法37条は必要経費、49条は減価償却についての記載です。文末引用。

東京税理士界(2016年2月1日号)でも話題に上がったようです。PDF→ https://www.tokyozeirishikai.or.jp/common/pdf/tax_accuntant/bulletin/2016/feb_03.pdf

(3)未経過固定資産税の消費税

未経過固定資産税は売買代金の一部とされています。そのため、土地部分の未経過固定資産税は消費税非課税。建物部分の未経過固定資産税は消費税課税。

固定資産税の精算という取引の本質から考えると消費税の課税関係があることに気持ちが悪いですが、しつこいですが、未経過固定資産税は売買代金の一部なんだそうです。 消費税法基本通達10-1-6、文末に引用します~。

(国税庁HP 質疑応答事例 消費税 未経過固定資産税等の取り扱い)→ https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/02/33.htm

2,国税不服審判所の裁決

(1)国税不服審判所 平成14年8月29日裁決。

(国税不服審判所HPより 裁決事例集NO.64 152ページ)→ https://www.kfs.go.jp/service/JP/64/16/index.html

納税者は、受け取った未経過固定資産税は、期間コストの清算だから譲渡所得の総収入金額ではないのだ、と主張。(他にも論点はあった)

課税庁は、未経過固定資産税は買主に納税義務が移る訳ではなく、買主は固定資産税の税負担なしで所有使用できる土地を購入した取引だから、総収入金額に含めるのだ、と主張。

不服審判所は、売買条件の1つだから、課税庁の言うとおり。「形式的に総収入金額に該当することが明らか」とも言っている。(事情を理解するが)固定資産税は所有期間に応じて按分する税ではないから、「立替金の清算という性質は持ち合わせていない」と。

本件、裁決事例集、おもしろいので読んでね。

(2)感想

わたしが偏って読んでいるのかもしれないけど、不服審判所は未経過固定資産税が総収入金額になるという確固たる根拠に欠けている気がしますわ。消去法で「総収入金額じゃないですって言い切れない」って読んじゃった。

判断(1)更正処分について のイ で、「形式的に総収入金額」って言っちゃってるし。(税務は実態で判断すべきでは)

ロの(イ)では、「未経過固定資産税等相当額の求償と評価することは現行法上できないから立替金の清算という実質を有するものとはいい得ない」と言っている。

なんとなく、立替金の清算だという現況を理解しているように読めない?「いい得ない」ってところが。

同ロの(ロ)でも、(もし当事者間で固定資産税の清算について取り決めがなかった場合に)「不当利得請求権が発生する余地はなく(そのように解さなければ、法的安定性は著しく害される恐れがある)」と言っている。

さらに、(固定資産税等は)「所有期間に対応して課税される建前にはなっていないのであるし、仮に固定資産税等が期間コストの性質を有することを理由に所有期間を観念するにしても、その所有期間がいつからいつまでを指すかについて、地方税法は全く示していないのであるから(以下略)」

なんとなく、裁決に歯切れの悪さを感じるのはわたしだけでしょうか?

(もしかすると、どこかの勉強会等でこの裁決に出会っていたかも?)固定資産税っておかしいな。おもしろい。

3,令和2年税制改正(所有者不明土地の課税)

(1)制度の概要

ところで。

令和2年度の税制改正大綱には、所有者不明土地等に係る固定資産税の課税上の対応、というものがあります。

財務省HPより 令和2年度税制改正大綱2/9)→ https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2020/02taikou_02.htm#02_01

令和3年以後、土地又は家屋の所有者がどうしても不明である場合には、市町村は、その不動産の使用者を所有者とみなして固定資産税を課税できてしまうんだそうですわ~。

(2)それなら未経過固定資産税だって・・・・

わたしは、この税制改正は国民感情からするとヘンではないと思います。所有者不明ってことは、その不動産使用者は賃料を払わずに使っているってことでしょ?時効取得も出来るんだし、固定資産税を課税しても悪くないんじゃない。

(前述の通り、固定資産税は1月1日に不動産等を所有する者に課税される税です!たとえば1月2日に取り壊しても日割りはありません。)

結局、市町村の課税の都合でしょ?

固定資産税は、自治体の税収のベースなので!土地・建物は目の前に存在するんだから、誰かが納税しないと話がおかしいよね(北野税法学で読んだかな)。

税負担者が、使用者でもいいじゃない。

たとえば利用者から賃料をもらわずに不動産を利用させていた場合、固定資産税のみを利用者に負担させても使用貸借扱い(利用者負担させた固定資産税を収入計上しない)でしょ?譲渡の時だけ収入金額扱いってヘンじゃない?

だから、売買時の未経過固定資産税だって、買主の今後の所有期間分の固定資産税は立替金の清算という解釈もアリなのでは?

・・・・というのは個人的なボヤきであり、こういうボヤきを鵜呑みにして自分に都合良く解釈しないでください!(税理士の税務判断に従ってくださいね~。)

未経過固定資産税は売買代金の一部として税務処理なのだそうですよ~。

4,関連条文集

傍線は小野寺が勝手にひきました。

所得税法

(収入金額)
第三十六条 その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、
別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。
2 前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。
3 無記名の公社債の利子、(以下略)
所得税法
(必要経費)
第三十七条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上
必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、
これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用
(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
2 山林につきその年分の事業所得の金額、(以下略)
所得税法
(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)
第四十九条 居住者のその年十二月三十一日において有する減価償却資産につきその償却費として第三十七条(必要経費)の規定によりその者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、
その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその者が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする。
2 前項の選定をすることができる償却の方法の特例(以下略)
所得税法施行令
(減価償却資産の取得価額)
第百二十六条 減価償却資産の第百二十条から第百二十二条まで(減価償却資産の償却の方法)に規定する取得価額は、別段の定めがあるものを除き、次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に掲げる金額とする。
一 購入した減価償却資産 次に掲げる金額の合計額
イ 当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(関税法第二条第一項第四号の二(定義)に規定する附帯税を除く。)その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額
ロ 当該資産を業務の用に供するために直接要した費用の額(以下略)

消費税基本通達

(未経過固定資産税等の取扱い)

10-1-6 固定資産税、自動車税等(以下10-1-6において「固定資産税等」という。)の課税の対象となる資産の譲渡に伴い、当該資産に対して課された固定資産税等について譲渡の時において未経過分がある場合で、

その未経過分に相当する金額を当該資産の譲渡について収受する金額とは別に収受している場合であっても、

当該未経過分に相当する金額は当該資産の譲渡の金額に含まれるのであるから留意する。

(注) 資産の譲渡を受けた者に対して課されるべき固定資産税等が、当該資産の名義変更をしなかったこと等により当該資産の譲渡をした事業者に対して課された場合において、当該事業者が当該譲渡を受けた者から当該固定資産税等に相当する金額を収受するときには、当該金額は資産の譲渡等の対価に該当しないのであるから留意する。

 

地方税法
(固定資産税の納税義務者等)
第三百四十三条 固定資産税は、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下固定資産税について同様とする。)に課する。
2 前項の所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者(区分所有に係る家屋については、当該家屋に係る建物の区分所有等に関する法律第二条第二項の区分所有者とする。以下固定資産税について同様とする。)として登記又は登録されている者をいう。
この場合において、所有者として登記又は登録されている個人が賦課期日前に死亡しているとき、若しくは所有者として登記又は登録されている法人が同日前に消滅しているとき、又は所有者として登記されている第三百四十八条第一項の者が同日前に所有者でなくなつているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。
3 第一項の所有者とは、償却資産については、償却資産課税台帳に所有者として登録されている者をいう。
4 市町村は、固定資産の所有者の所在が震災、風水害、火災その他の事由によつて不明である場合においては、その使用者を所有者とみなして、これを固定資産課税台帳に登録し、その者に固定資産税を課することができる。
5 農地法第四十五条第一項若しくは(以下略)
地方税法
(固定資産税の賦課期日)
第三百五十九条 固定資産税の賦課期日は、当該年度の初日の属する年の一月一日とする。

使用貸借とは、民法(明治29年法律第89号)第593条に規定する契約をいう。したがって、例えば、土地の借受者と所有者との間に当該借受けに係る土地の公租公課に相当する金額以下の金額の授受があるにすぎないものはこれに該当

参考:国税庁HP 通達 使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて

 → https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/731101/01.htm

投稿者: 小野寺 美奈

税理士。農業経営アドバイザー試験合格者。認定経営革新等支援機関。相続診断士。FP。 川崎市・東京多摩地方を中心にした、地域密着・現場主義。 税務の記事はご自身で税法を確認されるか個別に有料相談に来てくださいね。