源泉所得税の時効

2020.9.15 源泉所得税は実は難しいです。

源泉所得税は、税の負担者と納税者が異なる仕組みです。

源泉所得税は、事業主(会社や個人事業主)が納税義務者です!

1,源泉所得税の時効も5年

もし、事業主が源泉徴収を多く納税した場合、納付期日の5年後が時効で、還付されない。

たとえば、従業員から「過年度の源泉徴収が多すぎました!返せ!」と言われて返還した際に、既に納税して時効の5年経過していたら事業主の自腹になる、ということです。(税務署から還付されないから従業員に返金しない、という理屈は通用しないそうです。租税って特別扱いなので、雇用や民法の話とは違う)

もし、事業主が源泉徴収額を納税し忘れてしまった場合、納付期日の5年後が時効で、税務署は「納税しろ」と言えない。

2,国税の時効

引用元は国税庁HPの「研究活動」より。

(2)国税の消滅時効制度

イ 国税の消滅時効制度の意義・特色
国税の消滅時効制度は、徴収権の消滅時効(国税通則法72条)と還付金の消滅時効(国税通則法74条)とが規定されており、

いずれも時効期間は5年とされている。

国税の徴収権の時効については、援用を要せず、時効完成後における権利の放棄はできない(国税通則法72条2項)。

また、国税の還付金等に係る請求権の消滅時効については、国税の徴収権の消滅時効と同様、援用を要せず、時効完成後における利益の放棄はできない(国税通則法74条2項)。

また、国税の徴収権及び還付請求権の時効については、別段の定めがあるものを除き、民法の規定が準用される(国税通則法72条3項、74条2項)。

3,源泉徴収もれで追徴

2016年9月、アップルの子会社の日本法人「アイチューン」、非居住者の使用料に関する源泉徴収漏れで120億円の追徴課税があった。

もし、5年を過ぎていたら追徴できなかったんですねぇ。(本件は単なる税務判断漏れで悪意なかったようです)<毎日新聞からのURL→ https://mainichi.jp/articles/20160916/k00/00e/040/183000c

納税の義務があるのに5年で逃げ切りってなんかズルいし、対応して還付も5年で泣き寝入りなのってしょんぼりだけど、残念ながら上記の通り、国税に時効はあるんだそうです。

4,偶然の重なりで論文に出会うの巻

先日、オクヤ教授の講義を受けて私は学んだ。

「税理士の使命の一部に、”納税義務者の信頼にこたえ”と記載されているけど、源泉所得税と消費税があるから納税義務者だけではなく一般国民のことも考えるべきでは」

先日、地域の会報誌を読んでいて、新しく管轄税務署に配属された副所長が税務大学校のセンセイだったと!なにか書いているかしら、と検索してみたら、やっぱりね!”論叢”ヒットしました。

色々アンテナを張っていると、急に結びつくことがあって面白いね。

5,研究論文 源泉所得税の時効について

国税庁HPより 研究活動 源泉所得税の過誤納金に係る還付請求権の消滅時効 → https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/95/03/index.htm

私は岡村先生の本件研究で面白いと思うのは、時効の話ではなく。(ゴメン!)

源泉徴収制度の言及と、やっぱり課税庁だから役人だよね、と思うこと。こういう相手の思考を知っておかないとならないよね。こっちの理想だけ言っても進展がないから。

(1)源泉徴収制度について言及があること

本件WEBページの、(3)源泉所得税の過誤納金に係る還付請求権の消滅時効

をぜひ読んでみて!(時効の部分は難しいから流し読みで大丈夫!後で見とく!)

しかるに支払者は、租税手続法の面では、自己の本来の納税義務とは直接の関連しない様々な義務を課され、しかもその過怠は、あたかも自己の義務違反のごとく処罰される。

そうなんだよ、岡村先生。過怠ていうけど、そのコストは事業主負担なのですよ。

「あたかも自己の義務違反のごとく処罰される」とあるので、岡村先生は源泉徴収制度そのものに思うところがあるのでしょう。(期待)

(2)結論は国税の考え方

大量反復的な処理が求められる税務署職員による課税実務においては、過度に個別具体的考慮を求めることは困難

確かにね。

課税庁の職員だから、そういう結論にしかならないのかもしれない。

納付の日を時効開始の起算日とするための論文なのかもしれぬ。

しかしだ。裁判例で特殊な場合を紹介している。経営権争いに関して役員退職金を返還させた珍しいケースでは時効の発生日を争ったケースもある、と書いているのでフェアな気もしました。

(3)疑問

どこかで会ったらコメントを求めてみたいと思います。全速力で逃げられたりして(^^)/

「税の負担者ではない事業主が結果的に自腹になるような制度」を実行する課税庁は、どういう気持ちなのでしょう?当然抵抗する事業主に対して、どう説明して納得させているんだろう。

投稿者: 小野寺 美奈

税理士。農業経営アドバイザー試験合格者。認定経営革新等支援機関。相続診断士。FP。 川崎市・東京多摩地方を中心にした、地域密着・現場主義。 税務の記事はご自身で税法を確認されるか個別に有料相談に来てくださいね。