寡婦寡夫控除と老年者控除

2020.10.26 寡婦控除、寡夫控除、老年者控除について、コンメンタールを読み、まとめます~。

どうして、寡婦と寡夫で違いがあったのかを考えてみました。時代背景ってあるよね。

寡婦控除

寡婦控除は、戦争未亡人を代表とする夫と死別した女性が、子や親など係累を養う大黒柱として働くには追加の費用がかかるため、税制上の配慮をしようと昭和26年度税制改正にて創設された制度です。

翌年の昭和27年度税制改正で税額控除方式(4000円~)に変更。

遺族年金受給者は税額控除額をアップしていた時期もありましたが、遺族年金給付額が大幅に引き上げられた昭和34年度に、割り増し税額控除額は廃止になりました。

昭和42年度の税制改正で、税額控除から所得控除に変更・・・・。申告要件もなくなりました。税額控除が嫌われた理由など、面白いのでコンメンタール81条の沿革をぜひ読んでね!なんか荒れてた時代なんだろうか・・・・・。

昭和47年税制改正で扶養親族なしでも寡婦控除適用が始まった。これは当時は交通事故で父を失う過程が増加していたからだそうです。

(歩道橋が作られたのもこの時期以降なんでしょうね。そして50年近く経って歩道橋老朽化で撤去されている)

寡婦控除の趣旨が、追加的経費への斟酌です。所得制限を設けたのは、夫の遺産で別の所得があるような場合にまで配慮は必要ないという考えだそうです~。

当時は夫との死別限定でしたが、平成元年、措置法で特別の寡婦(離婚後の女性で扶養親族ありの場合には所得要件を満たせばプラス8万円で35万円の所得控除)が創設。

特別の寡婦35万円て、措置法なのですね~。租税特別措置法は、期間限定の法律で毎年延長しているものらしいので、いつでもやめられると聞いた記憶があるけど・・・・。税制改正で「特別の寡婦、更新します!」ってあったかな?

寡婦控除・特別の寡婦は、令和2年現在も、存在しています。

令和2年以降は、すべての状況について所得要件(500万円)がつきましたよ~。(なお、令和2年度税制改正前は300万円だったようです)

寡夫控除

昭和56年度税制改正で新たに寡夫控除が創設。

「税制調査会の昭和56年度の税制改正に関する答申」に記載があるとおり、とコンメンタールには引用元をクリアにしています。助かるね。

社会情勢の変化に対応し、父子家庭のための措置として、寡婦控除に準じた制度を創設。

寡婦の中に同居させたのは、人的控除がたくさんあるので、別の項目だと混雑するからだったようです。

令和2年分からは寡婦と寡夫の差が縮まったとはいえど、そもそも寡婦と寡夫の差を設けた理由はありました。コンメンタール2条1注釈を読んでみましょう~。

昭和56年当時、寡夫の概念を創設する際にはどのようないきさつがあったのでしょう。

寡夫の要件に「子」の扶養と限定しているのは、子供が小さい頃は残業が出来ない場合などを想定しているようです。寡夫が職業選択の制限を受けるのは、子供が小さいときだけであり、老親の扶養の場合に職業選択の制限を受けない、と当時は考えていたようです。

男性は外で働くのが普通で、親を養うのが普通であるから、寡婦の場合とは区分けして考えていたようです。

老年者控除

昭和26年に寡婦控除と共に創設され、平成16年度税制改正で廃止になった所得控除。

それまでは、65歳以上で所得1000万円以下であれば50万円(住民税48万円)の所得控除があったらしいです!

平成16年度税制改正よりも前(平成16年分まで)の寡婦控除の要件には、老年者控除の適用がある場合には寡婦控除の適用除外だった。

(伊東市HPより 老年者控除の廃止により寡婦控除の適用は)→ https://www.city.ito.shizuoka.jp/gyosei/yokuarushitsumon/kurashi_tetsuzuki/zeikin/4136.html

65歳になった未亡人は、寡婦控除27万円を卒業して老年者控除50万円にランクアップしていたのだけど、平成17年分を境に、65歳以上でも寡婦控除の適用が継続することとなった経緯があるようです。

(明石市HPより 老年者控除の廃止)→ https://www.city.akashi.lg.jp/zaimu/shiminzei_ka/kurashi/zekin/kaise/documents/18kaisei.pdf

感想

令和2年の寡婦と寡夫の違いは、老年者控除との絡みを考慮しなかったからなのかもね。女性だけ、高齢未亡人でも寡婦控除が受けられるなど、なんか男女差が残ってしまったのは、平成16年度改正の際に、老年者控除と寡婦・遺族年金について深掘りしなかったのが原因だったのかも。

ところで、寡夫控除が創設された昭和56年当時は、まだまだ男性社会だったので「男は外で働くもの」だったのだろうし、会社が従業員の面倒をみていた時代だから、一時的に残業が出来ない男性がいても子供が大きくなってモーレツサラリーマンをすればキャリアには影響しなかったのかもね?

けど、いまは違う。男女の役割が様々になってきたよね。男はソト、女はイエ、ではなくなったよ。

経済環境も変化した。給料が上がらずに生活水準は上がった。みんな贅沢になったし。

男性の給料だけでは一家が生活できないケースもあるし、専業主婦の概念が昔とは異なる気がする。(昭和の専業主婦が家事・育児・介護すべて担っていたが、令和の専業主婦は趣味とおしゃれに没頭する高額所得者の妻というイメージ)

昭和56年当時、40年後の令和2年に男性の育児休業取得を応援する時代がくるとは、思わなかったに違いない。

当時、男女差を設けた税制が間違いだとは思わないけど、今の国民感情にはそぐわない。

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最近では、男性の育児参画には追い風だけど、介護はどうなるんだろう。

高齢化社会になりましたが、老親の世話は女だけの仕事なんだろうか。

高齢者は病院や介護施設へ入所させておくという時代ではなく、老後は周りの協力を得ながら本人や地域で協力して自活しましょう、という時代でしょ。介護保険も疲弊しています。

そういった、家族のあり方や老後の生き方に対するポリシーを無視してきて、「コロナだからテレワーク」だとスルッと通ってしまうという・・・・。

結論

もう、「女だから職業選択に制限があるから追加経費が必要」って時代じゃないと思うんだよね。女性だから大変な部分はあるけど、それは税制上の配慮とは異なると思います。

投稿者: 小野寺 美奈

税理士。農業経営アドバイザー試験合格者。認定経営革新等支援機関。相続診断士。FP。 川崎市・東京多摩地方を中心にした、地域密着・現場主義。 税務の記事はご自身で税法を確認されるか個別に有料相談に来てくださいね。