2022.9 政府税制調査会 第14回 令和4年9月7日開催を視聴。今回は、後半の海外視察の報告1.18~です。
アメリカ、イギリス、フランス、ドイツの税制への視点・税務の状況が分かり、参考になりました。
政府税調 第14回 令和4年9月7日開催。後半の海外調査報告。(視聴は9月21日まで)
内閣府HP 政府税調14回 → https://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2022/4zen14kai.html
クリックできる目次
アメリカ班
アメリカへは佐藤主光委員と中里実会長、主税局の3人で視察へ。
アメリカのバイデン政権の税制改正の視察。デジタル化・グローバル化への対応を調査。
佐藤主光委員の報告。
https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/4zen14kai2.pdf
https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/4zen14kai3.pdf
バイデン政権の税制への考え
バイデン政権は、所得格差是正、富裕層課税強化、大企業への課税強化が念頭にあるようだ。
企業会計上の利益に15%の最低課税することにしたようだ(それまでは税務ベースで21%)。会計ベースの課税を決めたのがインフレ抑制法の特徴。
所得の格差があったのが問題。
課税ベースの最低限が超過利潤になっていた。
アメリカの税務手続き(法定調書拡大)
ギグエコノミーの増加により法定調書提出義務対象者の拡大(フォーム1099。年間600ドル支払いへと拡大)、全員確定申告、海外投資ファンドへの課税。
ギグワーカーの収入把握がポイントになっている。
個人事業者の税務手続き、アメリカは全員が確定申告をする(多くは自分で)。個人の電子申告は90%超。
無形資産への課税。GILTIとピラー2では視点が異なる。
アメリカ 課税権の配分
所在している場所(住所地)で課税する。課税権の配分について、州レベルではややこしいことになっている。日本は1月1日に所在する自治体で払うものであるが、アメリカでは、州の間での税源配分は細かくやっている。法人税でも同じようにしている。問題意識が高いと感じた。
アメリカ 海外投資 未分配の利益課税
海外投資について。PFIC。未分配の利益への課税。分配時だけに課税するので課税の繰り延べが出来てしまい、国内・国外の投資会社により不公平がありえる。そのため、いつ課税するのかを選択できるようにしたが、多くの場合はファンド側の利益が出た段階で課税する方法が選ばれている。
委員の感想
個人的に面白かったこと。
仮想通貨はモノ扱い。アメリカは源泉徴収を選べるので多く源泉徴収できる仕組みがある。日本のように、還付を受けるための申告ではないようだ。
<おのでら:アメリカの給付付き税額控除(子のいる夫婦合算で70万円の税額控除)の資料があり。今の日本のこども手当よりもこの方がいいわね。>
欧州班
諸富委員と吉村委員と主税局3人で。
英国、ドイツ、フランスへ調査をしてきた。
昨今の税制をめぐる動向、
税務手続きのデジタル化・グローバル化の税制について調査してきた。
https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/4zen14kai4.pdf
https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/4zen14kai5.pdf
昨今の税制 英国
英国、法人税率25%へアップ。医療介護負担を導入、配当所得課税を増税(8%台~39%台の累進課税)。
キャピタルゲイン課税を負担増加へ(労働所得には負担増としない)。それが国民から好まれる。給与所得者に医療介護負担金が発生するため、配当で手当てすることを回避する目的もあるようだ。
昨今の税制 フランス
財政規律への検討を行っている。
所得課税CSGがあり、社会保障費負担がある(給与所得に偏らない)。増税予定なし。金融所得課税・法人課税共にEU並みであるため増税を行わない。
(賃金と不動産収入などは累進課税、金融所得課税は30%)
付加価値税の引き下げ予定はない。
昨今の税制 ドイツ
格差縮小のための措置を国民は望んでいる。現在、給与課税等と金融所得課税には税負担に差があり、金融所得課税の方が税負担が少ない。現在、税率変更の予定はない。
税務手続き 英国
リアルタイムインフォメーション化をすすめていて、給与所得者は毎月プチ年末調整のように支払い税額の調整を行い、源泉徴収額が変化する仕組みにしている。(PAYE)導入には支援金の給付などの要因があったようだ。役所へ情報共有している。
自営業者で一定の所得がある者は、四半期ごとに税務当局に財務情報を電子により報告するシステムを2024.4から導入する。
税務手続き フランス
給与はDCN、年金はPASRAOというシステムを構築した。企業の手続き簡素化の目的。政府のさらなる情報把握のためではない。
2019からDCN情報を基に源泉徴収はじまる。
記入済申告書があるが、事業所得等についてまで自動連動するわけではない。
電子申告は義務化している。
DCN,PASROUは匿名した上で役所内情報共有するが、英国と同様にプッシュ型支援金として利用されていない。
税務手続き ドイツ
給与所得者の利便向上のために、2013年に「賃金税源泉徴収データオンライン照会システム(ELStAM)」を導入し、納税者の家族情報・課税クラス等の情報を蓄積。雇用主はこれらの情報をもとに源泉徴収税額を算出するため、源泉徴収・年末調整の段階では、雇用主と従業員の間での書類のやりとりは不要となる。
ドイツは、プライバシーへの配慮や税務当局が情報を守るという観点から、所得把握や目的外利用は難しいようだ。
ギグエコノミーへの所得把握について。
所得把握は困難。
OECDにおいて、国ごとに異なる報告要件が設定されることを避け、報告された情報についての関係国・地域による自動的情報交換を促進するため、プラットフォーム売主が実現した取引及び所得に係る情報を、統一的な基準により収集するためのモデル報告ルールについての議論が行われ、モデルルール等が策定された。
<対象プラットフォーム事業者>
モデルルール(2020年7月公表):不動産賃貸の仲介、個人サービスの仲介
拡張モジュール(2021年6月公表):商品の販売の仲介、移動手段の賃貸サービスの仲介
国際間の取り扱いを統一したい。
付加価値への課税
グローバルなオンライン消費の拡大を受けて、適正な課税への課題がある。
EUでは、BtoC取引は、仕向地主義※に変更し、プラットフォーマーを最終的な役務提供者とみなして納税義務を課す制度を2015から導入。
※おのでら調べ。仕向け地主義(読み方:しむけちしゅぎ|英語:destination principle)とは、貿易での 二重課税 を防ぐために、輸出時に課税を免除し輸入時に課税する、という輸出入品への 付加価値 税の課税の考え方・仕組みのことです。
ドイツでは、プラットフォーマー登録をしない者は取引から排除。
質疑応答
神津会長(法定調書について)
ギグエコノミーのアメリカの課税について、興味深い。法定調書の拡大について。源泉徴収制度の有無と、日本でギグエコノミーの支払調書が必要だという議論があったが、アメリカの実態(源泉徴収があるなら税率を含め)について教えてください
佐藤主光委員の回答
法定調書の提出であり、源泉徴収はない。確定申告は必要。コンプライアンスは高いと感じた。
寺井委員
ヨーロッパのコロナ支援金について、税務情報の共有へのためらいがあることを知りました。コロナ支援金の際、どんな情報共有があったのか、教えてほしい。
欧州班からの回答
雇用を守るための支援金があり、事業継続要件があったので、支払額を提出する必要があったようだ。
刀祢館委員
アメリカについて、ピラー1ピラー2の取り扱いについて。
アメリカ内の議論で、議会構成が変更になると合意が実施されない可能性があるのか。ピラー1について、当初の合意は限られたビックビジネスが範囲だったが、拡大される展望を感じるか?反対があり不透明か?
佐藤主光委員の回答
政治的判断について回答できないが、ギルティとピラー2との説明が不足していたが、議論があるが決めてはいないようだ。選挙結果次第ではあるが。政治的に身動きがとれないようだ。聞く相手もいなくて調べられなかった。
熊谷委員(グットな質問!)
1つ目。アメリカ・欧州を俯瞰した時に日本への課題をどう受け止められたか。現地に行かれて意外な気が付きがあったら情報共有ほしい。
2つ目。本題と外れるが、岸田政権の新しい資本主義を掲げていて、人への投資・官民の役割分担、新しい連携。共助、保険や寄付の強化があると考えている。岸田政権の新しい資本主義に関連する見解があれば知りたい。
佐藤委員の見解。(夫婦合算、所得捕捉他)
7頁の源泉徴収の話。最終日に聞いたのだが、夫婦合算課税を選べる。源泉徴収を自分で選べるのはなるほどと思った。(おのでら:アメリカには給付付き税額控除があるそうです)
アメリカの制度がいいとは言わないが、日本の個人住民税を1月1日に課税するのが当たり前ではないので、居住地は1年で同じではない所在地の多様化は、日本の現在の仕組みでいいのか。
ギグワーカーは源泉徴収よりは所得捕捉するのがいいのでは。今回のアメリカのギグワーカー所得捕捉の対応は、日本に参考になると思う。(おのでら:資料せんですわね)
8頁の欧州班とも関連するが、支援プログラム。アメリカは社会保障制度があるので、納税(所得)データと突合できるシステムになっている。情報連携は学ぶべきところがあると感じる。
応能原則への徹底を求めていると思う、アメリカの超富裕層への課税はピーピックへの関連し、未実現利益、時価評価課税も一案、現在の日本の実現所得だけではない。課税のタイミングの在り方について考えるのはいいと思った。
諸富委員の見解。(デジタル化、情報連携)
ノーマルへの復帰を感じた。財政支出をして国民を支えたが、付加価値税率の引き下げといった対応をしてきた。今回の調査の印象で、2021で終了し、2022へかけて付加価値税率も戻し、復帰していく流れを感じた。
膨れ上がった債務を順次減らしていく計画を作っているのが印象的。財源について議論が深まっている印象。
エネルギー高騰に苦しむ一方、利益が出ている企業もある。ドイツは寄付が多いので企業への課税が議論されている。財源を議論しているのが印象的だった。
所得情報を取得し給付をつなげている。企業が給与情報を入力すると政府で利用可能な情報になり、給付につながる状態になっている。整理縮小され、電子化され、大幅な手間(企業、給与所得者、行政スタッフ)が減少した。
日本ではデジタル庁でここまで出来ることを個人的に期待し、参考になると考える。
吉村委員の回答(DSN)
私が印象であったことは、フランスの所得把握システムである。イギリス・ドイツのような月ごとの所得把握を日本で使われていない。
8頁9頁で、DSNを制度作成時の苦労を記載しているので参考にしてほしい。現地にいかないと分からないことで有益であった。
<下記に引用>
人への投資の観点から、コロナからのリカバリーR&G税制。物価高の影響が出ているので家計への支援を考えているようだった。国により産業が異なるため、重視する点は異なるが問題意識はヨーロッパ共通と感じた。
中里会長のアメリカ視察感想
インフレが激しく急増していること。
経済活動が再開していること。
取り残された人々がいること。
深刻なショックを受けた。また議論してまいりましょう。
2.13終了
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・DSNについて 引用
<DSN>
○ DSN は、民間企業・公的機関・公共財政総局、社会保障機関をつなぐネットワークシステムであり、民間企業による給与支払の情報等が共有されている。2006 年にミッションとして立ち上げられたのち、2012 年に成立した法律により DSN が制定され、2013 年の1月から参加したい企業から自主的に始めていくという形でスタートした。そして 2016 年には企業全体に対して義務化された。2019年1月からは DSN をベースとして源泉徴収も開始され、2020 年から 2022 年にかけて公務員へのDSN 使用の義務化も行われている。【連帯保健省、公共財政総局】○ DSN は連帯保健省により管轄されているものであるが、DSN の創設に当たって心掛けた点は、3つ。
ビッグバン的ではなく徐々に進めること、様々な機関等が関わる話なので基準化を行うこと、各行政間のやりとりが安全に行われるように担保することである。【連帯保健省】○ また、DSN プロジェクトにおいては、企業にとっての手続の簡素化という大目的は原則として崩さないという姿勢をとっている。他の目的のためにシステムを改良すると、元々の目的が損なわれるような事態も考えられるからである。【連帯保健省】
○ DSN によってどのように企業の実務が簡素化されたかというと、それまでそれぞれの社会保障機関の求めに応じて、それぞれのタイミング(毎月、四半期に一回、等)で給与等の情報を入力し社会保障関係の申請を行わなければならなかったところ、DSN が導入されると、月に一本の情報を DSNシステムに送れば、後は自動的に各機関に合った情報に調整がされて情報が共有される形となり、企業にとっての簡素化が図られた。結果的に 45 ヶ所宛の手続が DSN で手続が済むようになった。
【連帯保健省、公共財政総局】○ DSN では、情報共有先の機関が必要とする関連部分の情報のみ共有される仕組みとなっている。統計機関にも情報は共有されているが、匿名化されたうえで共有されている。【連帯保健省】
○ 源泉徴収には DSN の情報が使われているが、DSN の情報が税務当局に行き、税務当局が決めたその人の源泉徴収の徴収率、パーセンテージがソフトによって計算されて、それがまた企業の方に行くという形になっている。源泉徴収率は前課税年度の情報をベースに決定されているが、収入が前課税年度に比べて下がった場合など、申請により新しい徴収率を適用することも可能。【連帯保健省、カデラス・マルタン公認会計士事務所・監査法人】
○ DSN のような電子化については、企業の側でデジタル化についていけないとの批判は特段なかった。元々フランスでは会計士が企業の税務等を代行する習慣になっているので、会計士の側に働きかけたり、小規模企業向けの簡易な提出フォーマットを設けたりした。【連帯保健省】