信託のシステム。差し押さえされたケース

29.4.18 神奈川 税法研究会87
信託財産は受託者が名義上の所有者だけど、実態は受益者のもの。
受託者が、固有財産に係る税を滞納したのに、信託財産にも係る賃料債権を差し押さえたのは適法だとした事例 (28.3.29 最高裁判決)

信託は難しく、しっかり信託法を勉強してからじゃないと関与できないね。
受託者は、信託財産ごとに決算書を作成して税務署に提出しなければならないみたいで、特に個人の受託者は、信託財産については申告期限は3/15ではなく2月末日になるから要注意!
消費税法にも注意しよう。他益信託は、課税関係があるよ!

・信託のシステム

財産を持っている委託者が運用益を受ける人である受益者を決める。
信託の内容や期限など細かいルールを(できれば弁護士さんと)決める。
財産を「信託財産」として運用を受託者に渡す。
信託財産が不動産であれば、司法書士に「信託財産の不動産だよ」と登記してもらう。預金なら、信託財産という名義に変更するらしい。

受託者が信託財産を運用する。(不動産賃貸収入を得たり修繕したり、有価証券の売買をしたりして儲かるように頑張る)
受託手数料をもらう。運用損の場合には、信託財産から持っていくこともできる!
受託者は信託財産の決算書提出と、自分の確定申告もしてね!個人なら、受託手数料は事業所得か雑所得だよ。

運用益から受託手数料を差し引いた利益は、受益者がもらう。確定申告してね!上記の例だと、不動産収入か、配当所得か、株式の譲渡所得だよ。

1、信託財産と固有財産は別人格

さて、今回の事例はヘンだよね。信託財産と、固有財産(受託者が所有している財産。)は、ぞれぞれ違うものと考えるんだったはず。人物は1人なのに、2つの者が、それぞれの財産を持っているってイメージだよね。同じ者でも別人格って感じ。
ジキルとハイド、ビリーミリガン、ヤヌスの鏡。

信託のルールでは、信託財産の収入は信託財産のもの。自分の持ち物(固有財産)は自分のもの。的な考え方でやるの。
自分の借金を信託財産から払わないといけないと、信託をお願いした委託者や受益者が損しちゃうから。

なのに、今回の最高裁では、自分の借金を、信託財産の収入からであっても払えっていう。おかしい。信託のルールの、別人格を無視してるよね。

ところが、債権はまるっと差し押さえましょうという国税徴収法63条を優先しましょうだって。

2、裁判に至る経緯

今回のケース、詳細はこんな感じだった。

受託者であるX社が、X社が購入した彦根市の固有財産の固定資産税を滞納した。
彦根市は、固定資産台帳を見て、X社が受託者として所有している信託財産の上にX社が購入したアパート賃料を差し押さえた。(旧信託法16条適用。信託財産の独立性・受益者保護等)

その差し押さえたアパート賃料には、建物分と、信託財産の土地を貸している部分とが混ざっているんだから、全部を差し押さえるのは信託のルール違反でしょう!を争った事例。

土地の信託を受けて、その信託財産の土地の上の建物を、受益者X社が固有財産として所有できるんだね。めっちゃX社は有利じゃない?委託者受益者にとっては、安定した収入になるから、みんなハッピーなのかな?
新信託法31条に、受託者ばっかりが儲かる仕組みはダメっていうのが出来たみたい。

3、台帳課税主義

固定資産税は、(固定資産)台帳課税主義という考え方があるらしく、彦根市の固定資産税徴収担当者は、滞納された固定資産税の台帳を見て、X社が所有している信託財産にも係る財産を差し押さえた。

登記簿見れば、信託財産だと分かるよ。

固定資産台帳には「信託財産」とは記載されないらしい。「信託は別人格」のルールは、台帳に載らずに無視されている。
信託財産と固有財産とは、納付書を分けるべきだよね。

4、信託財産の果実の一部も差し押さえ?

信託法23条1項には、「信託財産は一定の場合(信託財産の固定資産税滞納した場合などを指している)を除き、差し押さえしないで」って書いてあるよ。

国税徴収法63条には、債権の差し押さえは全額を差し押さえるのを原則とするけど、分けられるなら一部でもいいって書いてある。これは、債権は第三者である債務者の財産状況により取り立てられなかったりするからだって。第三者が貧乏人だったら…ということも考えているらしい。

税金のルールとしては、「とにかく徴収すればOK」という考もあってか、一旦滞納金額以上を差し押さえて、後から差額を返却はOKという判決があるようだ。(東京地裁 S45.4.30判決)

これらは、とにかく乱獲せよ!という意味ではなく、100万円の小切手のうち、60万円だけ差し押さえという訳にはいかないから、一旦100万円を差し押さえて過剰の40万円を返金するってこと。その小切手が現金化できない可能性も考えている・・・
ただし、濫用はダメ!という決まりがある。

今回のケースだと、信託財産の土地に建てられたX社所有の建物の借家人から家賃をいったん全額差し押さえておいて、建物に該当する部分は滞納した税金にまわすけど、残りは返す。ということだったみたい。

ところで、私の事務所も賃貸なんだけど、土地部分はいくら、建物部分はいくらで合計○万円を毎月払ってね、とは書いてない。一式(?)で○万円を前月までに払ってね、と書いてある。普通の賃貸物件はこうなってるよね。

信託財産の上に存在する、不動産賃貸収入のうち、土地に該当する部分は差し押さえが違法だと滞納したX社が言った。
借家人との契約書には、土地と建物との部分に分けていなかった。
さらに、消費税は預り金だから差し押さえをやめて、と言った。

5、最高裁判所の判決

最高裁判所の判決は次のようなものになったよ。

「X社は、他に差し押さえる財産がないんだからしょうがないでしょ。」

「彦根市職員が、固有財産なのか信託財産なのかを登記簿で確認しなかったのはしょうがないでしょ。」

「高等裁判所ではいったん納税者が勝ったけど、最高裁で高等裁判所の考えを棄却し彦根市が逆転勝訴ね。」

「委託者受益者が可哀想?損した部分はX社に対して賠償請求できるから問題ないよ。」

「差し押さえた家賃金額のうち、多めに差し押さえちゃった部分で返してくれない部分があれば、X社が彦根市に対して”不当利得返還請求”をして返してもらってね。」

「消費税はX社が納税義務者だから、消費税部分の差し押さえしても問題ない。なぜなら消費税は、消費者からの預り金ではなく、消費者と事業者との間の対価の一部だから。

だってさ!

(過去記事)民事信託 きんざいより→https://mina-office.com/2017/03/02/minji-shintaku/

投稿者: 小野寺 美奈

税理士。農業経営アドバイザー試験合格者。認定経営革新等支援機関。相続診断士。FP。 川崎市・東京多摩地方を中心にした、地域密着・現場主義。 税務の記事はご自身で税法を確認されるか個別に有料相談に来てくださいね。