30.8.26 地方ローカル線を旅行していた。停車駅で電車のドアがプシューと開いた。
駅員「段差があります、右側に手すりがありますよ。」
駅員さんと手をつないで、白髪のおばあさんが電車に乗った。
ドアそばの2人掛けシートに座っていた夫婦も気が付いて、夫の方が席を譲る。
夫「こちら、おかけください」
婆「あらあら、ありがとうございます、お兄さん。」
手さぐりでシートに座るおばあさん。
駅員「すみません、ご協力ありがとうございます!」
おばあさんが座るのを確認し、駅員と車掌がうなずき合い、電車はプルルと音を鳴らしてドアを閉め、ゆっくり発車した。
車内はローカル電車の割には乗客が多くて、座れていない乗客もいた。日曜日だから、観光客が多い。
婆「お兄さん、すみませんねぇ、いいのぉ?」
ばあちゃん、めっちゃ喋る。
妻「大丈夫ですよ、私は彼の妻です」
婆「あらぁ、悪いわねぇ、お兄さん、他の場所で座れてるの?」
妻「ええ・・・。座ってます」
あっ。優しいウソをついた妻さん。
多分、聞くとなしに聞いていた乗客もばあちゃんも、妻さんがとっさにウソをついたことは分かったと思う。
婆「・・・そう、よかったわぁ!あのネ、私、飴玉持ってるの。ほら、この中。味が2種類あるんだって、あなたたちにあげるわ、2種類とってくれる?」
妻「いえ、大丈夫ですよ~(いらない)」
婆「遠慮しないで!私じゃ分からないから、2種類とってくれる?ほらっほらっ(ゴリ押し)」
妻「あ、ありがとうございます、では・・・ガサゴソ」
その後もばあちゃんはずっと喋りっぱなし。田園風景と明るくよく喋るばあちゃんは、相性が良い。
情報量が少ないから、喋って相手の反応を感じておかないとね。親切にされたら、お返ししたいよね。「座っていますよ」のウソも「(いらないけど)ありがとう」のウソも思いやりなのかもね。
お互い分かってて、気が付かないふりをする。乗客はそれを見えないふりをする。
ローカル線は1駅が長い。次の駅かに停車したとき、ホームに迎えの駅員さんが待っていた。
駅員「お客様、」
婆「ああ、ありがとう。お兄さん、座席、譲ってくれてありがとうねぇ」
駅員「(手を取って)段差、ありますから、ゆっくり」
ばあちゃんはTHE昭和なホームへと下車し、ローカル線がゆっくりと発車した。
私は、駅員と手をつないでゆっくり歩くばあちゃんを車窓から見ていた。