税制調査会2018-2回目。資産課税(相続税・贈与税)

30.10.17 政府税制改正調査会をレポ。今回は相続税、格差解消、贈与税、相続時精算課税制度、BEPS。

政府税制調査会2018年。第18回目をレポ。

(財務省HPより)→ http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2018/30zen18kai.html

1、今回のあらすじ

小野寺まとめ

教育資金・結婚子育ての贈与税非課税制度は、平成31年3月の期限で廃止の可能性がある。生前贈与加算は、年数が伸びる可能性がある。小規模宅地等は縮小が検討される可能性がある。相続時精算課税制度は賛否が別れている。相続税の基礎控除の引き下げは無いように感じる。

今回の議論の抜粋

格差の固定化は検討課題である。相続税の生前贈与加算は3年では不十分ではないか?相続時精算課税制度を促進し、次世代へお金を渡すべきではないか?贈与税の非課税制度(教育資金・結婚子育て)は廃止すべきではないか?相続人の数により相続税が左右される現行の課税方式は複雑で問題もあるのではないか。相続財産の寄附をもっとほしい。

BEPSプロジェクトが進んでいる。国際協調を重視している。国際的な電子的取引について課税を強化していく。無形財産についての取扱いを議論していく。

2、資産課税をめぐる経済環境

主税局(公務員・財務省)が相続税と経済環境の変化について説明。PDF資料はこちら。

資産課税(相続税・贈与税)財務省 税制調査会18 301017

・高齢化と相続財産、金融資産の固定化

相続財産の内訳(これは課税された人の相続財産の内訳であると思われるが)について、平成4年は相続財産について土地が占める割合は75%、現預金の割合は10%だったが、平成28年は相続財産について土地が占める割合は38%へと落ち込み、現預金の割合は30%と増加。

60歳以上が持つ日本中の金融資産(現預金と株式)を集めると、1000兆円になる!

平成28年の相続税申告のデータによると、被相続人のうち80歳以上の割合は約70%。老老相続となっている。(平成元年の80歳以上は約40%)

ライフサイクルで見た、社会負担等負担と教育や年金の給付のグラフを作成した。(私から見ると、なんとなく、負担20:給付24くらいに見える。利息相当と考えると、そんなに悪くないんじゃないか?”社会の運営費”負担がない、ということを問題しているのであろうか。)

老後扶養の社会化が進んでいるということである。

・所得格差についての参考資料

続いて、10ページから資産分配機能について。

親の年収が子供の成績・進路・将来賃金について与えるデータを紹介。

(小野寺:つまり、貧乏人の家の子は塾代がないから成績が悪くて進学もままならず、生涯賃金は低いまま、男性の場合は結婚率が相当低い、というデータを表している。

幼児教育無償化は所得制限があるべきだし、高等教育無償化は、そもそも学校に行ける程度のプア層しか救えない。提示データが示している通り、学習費が捻出できないプア層の場合、学費を無償化にしても授業についていけない問題点は残る。生まれた環境により乗り越えるべき壁であるというのであれば、学費無償化みたいな憐みではなくて学費を貸してくれればいいだけ。私立は学費だけではなく制服代などもかかることを知らないのかなぁ。)

3、相続税・贈与税の現状

私がごちゃごちゃと考えてまとめた時間は何だったんかと思う、美しく相続税の沿革がまとめられている。

相続時精算課税制度の趣旨や問題点、有効な活用方法などもまとまっている。

専門の公務員はほんとスゴイわぁと思う。学者のきれいごとがふっとぶシンプル力。見習わねばならぬ。

相続税の基礎控除を引き下げても、死亡者のうち8%しか相続税が課税されない(厳密には生き残りの遺族などが課税されるのであるが)。平成29年の相続税の税収は2兆円ちょっと。

しかし、老老相続が進むため、次世代へ財産が回らないのであるから経済が停滞する、と考えているのだろうか?

長生きする分、年金受給額が増えて相続財産も増えていく、ってことなんだろうか?現役世代の負担で金持ちの年寄りの貯金が増えている、と解されるのだろうか?

充実した社会保障が老後扶養を社会的に支え、高齢者の資産の維持・形成に寄与している。

また、「老後扶養の社会化」に伴い増大した社会保障給付は、公費により賄われている割合が高く、その多くが公債発行に依存している。

これらを踏まえると、被相続人が生涯にわたり社会から受けた給付を清算するという観点から、相続税の対象の範囲のあり方について、なお検討していくことが考えられる

相続時精算課税制度や教育資金、結婚子育てなど、贈与税の非課税措置はいくつかあるのであるが、いずれも家族内贈与が対象であるため、格差の固定になる問題点がある。期限の到来を見据えて見直しを行っていく必要がある。

4、相続税の国際比較

特に贈与税と相続税の関係性について説明したい模様。なんとなく、生前贈与加算の期間を延ばしたいのではないか?が透けて見えました。そこまでして次世代に贈与をさせたいのかな?

アメリカ(遺産税方式・累積課税)、ドイツ・フランス(取得課税方式・累積課税)についてご紹介。

アメリカは超富裕層向けであるため、あんまり意味ない。

シャウプ勧告(昭和25年~昭和27年)時代には、日本でも取得課税方式・累積課税としていた。

ドイツは10年間の贈与を生前贈与加算(一定の控除有りの累積課税)。フランスは15年間の贈与を生前贈与加算(一定の控除有りの累積課税)。

日本は、法定相続分課税方式が足を引っ張っているので簡単にはアメリカ・シャウプ勧告通りにはいかない、という説明。

まるで、法定相続分課税方式をやめたら何とかなる的な解釈も出来るわけであるが・・・。ちょっと日本の文化にそぐわないと私は思いますわ。相続人の数によって税額が変化する欠点を変えればいい。

5、贈与税の特例

教育資金等一括贈与の贈与税の非課税措置について説明。

扶養義務者からの教育費の贈与は非課税なのであるが、一括して贈与できることと死後にも教育資金贈与の効果が見込めることがよい制度である。

貰う側の子・孫は30歳になった時の使い残した金額に贈与税が課され、あげた側が死亡しても相続税に加算しない。

貰った側の子・孫は、所得要件がなく、かつ教育費の範囲には習い事(楽器・舞踏・絵画・スポーツ)も含まれる(上限500万円)であるため、社会に出て働いて所得があっても贈与税の非課税枠のメリットを受けられる問題点がある。

教育資金等一括贈与は、家族にしか贈与できず、対象者がある程度の富裕層であるため、教育が終わった後も効果が続く本制度は格差の固定化につながる問題点がある。

現在の本制度の利用状況は延べ約20万件で、1.3兆円。近年は利用が減少し、足元1年間では1.5万件、非課税枠0.1兆円へと減少している。当初の役割は果たしたのではないか。

格差固定化防止の観点から見直しを行っていきたいと思っております。

教育無償化との整合性という観点からも問題があるのではないか。

結婚子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税

こちらは仕組みは教育資金とほぼ同じではあるが、相続税回避を防止するため、贈与者死亡時に相続税に加算する仕組みとなっている点が大きく異なっている。

(利用状況は少ない)

・参考資料。民法改正

民法改正により、相続税についての所要の手当てを行います。こちらは事務的に行います。

配偶者居住権は借家権など、色々考えて財産評価を決めます。療養看護に努めた方の特別寄与料についても手当てします。

1.04

6、固定資産税について

続いて、公務員(総務省)から資産課税・固定資産税について説明。

平成30年は3年ごとの評価替えの年です。負担調整措置の延長をするのであるが、納税者不利の場合について検討する。

(ちょっと、私には固定資産税の税額計算の知識が浅く、何の話をしているのか分からない)

7、委員からの意見

★翁 委員(女性)(㈱日本総合研究所理事)

長寿のリスク、健康寿命も考えるべき。格差拡大の傾向にあるため、相続税の役割は大切だ。

★佐藤委員(一橋大学大学院経済学研究科、国際・公共政策大学院教)

相続税について

①タイミングの重要性 精算課税の利用で次世代へ渡したい

②格差固定化をどうするか

の論点が2つで矛盾していると思う。

中立化するのであれば、相続税が相続時精算課税制度の利用促進により前倒しで現役世代に渡れば、(世代間の公平性的な観点からはいいけれども、の意味か?)プア層との中立性が損なわれる。

格差の固定化を長期的な視点で是正するのであれば相続税と贈与税の一体化はあるべきである。相続財産の寄付にインセンティブをつけるべきではないか。老老相続で(市場に出回る、という意味か)使途のないお金が年寄りにぐるぐる回るのは避けたい。

固定資産税の負担調整は分かったが、税の中立性の観点から住宅1/6などの中立性は考えなくていいのか。

金融所得課税の強化の話、相続税と派生する問題であるから貯蓄枠拡大(イデコなど)についてはいい、年寄りから貰う金融財産の所得課税についても(同義にしてよいのか)議論すべきだ。

★神津ゆきお委員(日本労働組合総連合会会長)

格差拡大の観点から資産課税は強化すべきだ。

相続税の基礎控除の引き下げ、贈与税率に引き下げをすべきだ。

相続時精算課税制度は一生累積課税に変更すべきだ。

教育資金・結婚子育ては富裕層中心の制度であるから、廃止すべきだ。

家族内贈与の優遇制度はやめて寄付を促進すべきだ。

トータルでどうするかと考えることが大事だ。金融所得課税、所得税と一緒に負担の構造のあるべき姿を確立すべきだ。次世代にしわ寄せをしている。

★田近委員(成城大学経済学部特任教授)

22ページについて平成25年改正で相続税の基礎控除を下げて税率を上げた。結果、基礎控除を下げた効果があり人数は増えたが、税収は増えていないため税率を上げた効果はなかった、と読んだ。

財産移転をスムーズにしたい。そのための相続時精算課税制度であった。しかし、死んだときにドカンとかかることには変わりがない。これでは資産移転が進まないのではないか。であれば、シャウプ勧告のようにすべきだ(?)。贈与税の基礎控除110万円が使えなくなる欠点がある。

相続人の数で相続税が変更するのは問題があるのではないか。

★土居委員

平成27年11月の本委員会で論点整理があった。資産再分配機能の確保・老後扶養の社会還元という論点で申し上げたい。

老後扶養と相続税という観点から相続税の在り方を考えていくべきだ。消費税で老人も負担するのであるが、物価スライドで年金給付は増える。物価スライドで上がった年金給付額は消費税増税額を補てんされる。つまり、年金・医療・介護(安く給付を受けているから)を考えても老人の財産は削られない。

薄く広く社会保障の世話になって財産を遺せたと考えて相続税を定額で課税したらどうか。社会還元という観点で。

資産再分配機能の確保。累進的な相続税は残しておくべき。つまり、相続税(変名してもよいが)を社会還元の定額制と再分配の累進税額と分けてもよいのではないか。

相続税の基礎控除を引き下げることもよいのかもしれないが、それ以前に相続財産の評価減で課税が少なくて済むのが問題があるのではないか。非課税枠についても知りたい。

★沼尾委員(女性)東洋大学国際学部教

贈与税の特例について、家族内贈与で格差固定化の見直しを検討している。廃止がよいのではと考えている。

派生して気になるのが、固定資産・相続も含めて、相続対象者がいないまま死亡や複数の被相続人の相続人(おひとり様相続)など複雑な観点からのまなざしも必要なのではないか。所有者不明土地なども問題点も考えていくべきでは。

★野坂委員(㈱読売新聞東京本社調査研究本部研究員)

平成25年の相続税の基礎控除・税率の改正があっても効果がなかった。今後も議論すべきだ。相続時精算課税制度の利用データを知りたい。活用されにくい要因も知りたい。より使い勝手の良い方法を考えたらよいのではないか。

贈与税の非課税措置については期限が来るので廃止すべきだ。

★林委員(東京大学大学院経済学研究科教授)

相続額と相続人・被相続人それぞれの所得の相関図を知りたい。低所得者が相続税が低いならいいのであるが、低所得者がたくさん相続財産を取得しても再分配になるのかどうか。

老老相続で死に金になるのであれば、(表現変更でニュアンス。社会に還元するような仕組み。中里会長注:個人の財産であるから、誤解を招く表現はモゴモゴ)も検討すべきだ。

登録免許税はしっかり取るのであるから(そんなことはないが)

(高額所得者の相続人が特例使って相続税ゼロは感情論として納得できるのかどうか、という意味かと)、相続税の基礎控除はもう一度下げる方法で検討されたらどうか。

★山田委員(山田コンサルティンググループ㈱代表取締役会長)

登録免許税、贈与の方が高い、不動産取得税は贈与ならかかるが相続ならかからない。(横断的な税構造を議論すべきだ)

基礎控除を下げても徴税が増えないのであれば、徴税コストを検討すべきだ。総合的に検討すべきだ。

<事務局:登録免許税は贈与が高いです。理由は対抗要件の重さの関係している。不動産取得税は相続の場合は非課税>

相続税の徴税コストの税務データもあれば示してほしい。

★・??委員

相続時精算課税使う方は、事業用資産。非上場株式。であると思う。実際には現金がないと利用できない制度であると周りから聞いている。

★中里会長

更に深い議論が必要です。

8、国際課税

国際課税についてBEPS 財務省 税調18-301017

国際課税、BEPSプロジェクト、開発途上国も含めて世界的に検討している。年2回集まっている。

国際的な課税逃れ防止の観点から、平成30年税制改正でPEの改正が行われた。例えば、倉庫や代理人を利用したり、工事期間の分断を行うことで日本で事業を行っても課税されないような仕組みを封じた(ニュアンス)

非居住者の口座情報について、国際間で課税庁同士による情報交換を既に開始している。租税条約。議長国は日本で、守っているか確認し、サボった国は公開する。

電子経済への対応

電子化に伴う課税上の課題を各国で検討している。二重非課税の問題を解決したい。

今回の税制調査会では、過大支払利子税制の利子控除制限について検討していただきたい。

また、移転価格税制について、特に無形資産の取扱いについて検討していただきたい。

2020年までに合意に基づいた解決のとりまとめ作業を行う。

・委員からの意見

★佐藤委員

利子控除の問題、移転価格税制について検討すべきであると考えて良いのか。どういう議論の延長でしょうか。

移転価格税制は今でもやっているが、何を議論するのか?

国際協調が日本は好きですからそれでOKですが、各国は自国で勝手にやっているケースもある。我が国も独自の措置は必要でしょうか。

<事務局:過大支払利子税制、無形資産の取扱いについて課題があるため議論いただきたい>

★土居委員

国際協調がうまくいくに越したことはないが、暫定的措置があってもよいが。内外無差別ではない、課税しないと高度に電子化された事業主が有利になるのは不公平である。

私はこういう懸念をもつ。急に課税されて銀行が衰退して、と懸念したがそんなことはなかった(バンクレビュー)、しかし、払って残るという選択にするような国が出てくるのではないか。それを想像しておくべきでは。カルテル破りも想定すべきだ。

★岡村委員

利子過大、移転価格はある程度のペースは国際的な問題が発生するので考えて日本が考えて対応を進めるべきだ。

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次回19回は法人課税と個人所得課税(老後の自助努力について議論、企業年金についてモリト教授にお話を聞ければ、と思っている)

 

 

投稿者: 小野寺 美奈

税理士。農業経営アドバイザー試験合格者。認定経営革新等支援機関。相続診断士。FP。 川崎市・東京多摩地方を中心にした、地域密着・現場主義。 税務の記事はご自身で税法を確認されるか個別に有料相談に来てくださいね。