政府税制調査会2020年11月13日@資産移転の時期 相続税課税方法

2020.11.29 政府税制調査会2020年11月13日開催。第二部。遺産移転の時期について。おのでらの独自解釈意訳メモです。

0,まとめ

相続税課税強化が人気。

贈与税の非課税措置法(教育資金一括、結婚子育て、住宅資金も?)は不人気のため、2021で廃止ありえる。

贈与税と相続税の一体課税が人気。暦年課税の廃止までありえる。

相続税の課税方式は、遺産税方式が人気。

生前贈与加算は、一生累積課税が人気。デジタル化でマイナンバーに生前贈与履歴を残したがっているが・・・・・。

1,財務省 ヨシズミ企画官からの説明

財務省から資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築等についてについて説明があり。

資料は次の通り。

内閣府HPより 税制調査会 資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築等についてPDF → https://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2020/2zen4kai2.pdf

15頁、60代以上の方の財産が1000兆円以上となっている。多くは金融資産である。

少子高齢化が進んでいる。相続人の高齢化が進んでいる。老老相続が増えた。

ところで、若年世代(30代未満)の世帯収入は低下している。高齢者の預貯金は二極化している(プア層と富裕層)。(富裕層の高齢者の預貯金は若年世代に回せるのではないか、という潜在的説明)

親が富裕層であると、学力が高い傾向がある。富裕層の子は生涯賃金が増えることが想定されている。格差固定になっている。

日本の相続税・贈与税の仕組み上、意図的な税負担の回避が行われている。

アメリカは、生前贈与を生涯累積して相続時に課税されるため資産移転の時期が異なっても公平な税制になっている。

日本は、累進税回避が行われている問題がある。(相続時清算課税と暦年課税で課税負担に差が出てしまう)

ドイツ・フランスは過去10年間・15年間の生前贈与を相続時に加算するシステムになっている。資産の移転時期についてさほどの不公平感がない。

日本は、(富裕層が)分割して贈与し、累進負担を回避しながら資産移転することが出来る税制になっている。

連年贈与をしているケースが多い。年間700万円以下の贈与がほぼ。税負担軽減になることが分かる。

相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直し、格差の固定化を防止しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制を構築する方向で、検討を進める必要がある。

贈与税の非課税制度の措置法期限が訪れる。教育資金、結婚子育て、住宅資金。ご検討ください。

2,委員からの意見

2-1 翁委員(㈱日本総合研究所理事長)

贈与税の非課税制度は廃止がよい。金融資産65%を高齢者が持っていることが分かった。認知症リスクもある。

将来の相続財産取得者が少ない家が損するような仕組みは良くない

2-2 土居委員(慶應義塾大学経済学部教授)

老老相続が進んでいる割には現役世代は金融資産を持っているのが少ないことが分かった。

贈与税が相続税の税負担回避の制度趣旨が逆に連年贈与制度により相続税の税負担回避に利用されていることが分かった。資産移転のタイミングにかかわらず、税負担が同様になるような制度設計が必要である。世代間の資産移転を阻害しないようにすべきだ。

2-3 武田洋子委員(㈱三菱総合研究所政策)

資産移転の時期に中立な税制がよい。格差の固定化是正は必要だ。世界的に見てもコロナ禍で影響を受けているのは飲食等観光業などサービス業が多いのであるが、非正規など特定の方々に大きな影響が出ている。デジタル化関連事業は好調、今後の事業回復が難しい業種がある。

コロナで格差が発生することが見込まれるので、格差の固定化は回避すべきだ。

2-4 石井夏生利委員(中央大学教授)

相続税の累進課税回避行為について、制度的な対応が必要。

格差固定化防止は必要。若年世代への資産移転は重要だが、贈与税非課税措置を行えば世代間移転は可能であるものの、格差は広がるので問題がある。公平な税制構築すべきだ。

2-5 諸富 徹委員(京都大学教授)

相続財産6億円を境に累進課税回避行動があることは問題である。

生涯累積課税の考え方はシャウプ勧告の際に一旦は実現したが、事務負担や税務調査の限界から現在の相続税方式に変更になった。アメリカ方式の生涯累積課税がよいのでは。

2-6 神津信一委員(税理士)

高齢世帯に資産が多くあること、高齢世帯間の格差がある。

連年贈与は不公平だという意見があったが、私は異なる意見だ。贈与税と相続税は切り離して考えている。税率差を利用した生前贈与を利用するのは当然の経済活動だ。

税制の仕組みを変えて構築するのは賛成。(しかし、認められている贈与が税逃れというのは租税法律主義の観点から違うのでは、という意見かな)

住宅取得時の非課税など、早期財産移転への寄与がある。更なる進化が求められている。マイナンバー制度を利用するなど、しっかりとした議論を求める。

2-7 寺井委員(慶應義塾大学教授)

相続時精算課税制度は、資産移転時期に中立である。暦年課税は相続財産に合算されないので、税負担軽減が可能なので資産移転時期に中立ではない。

併存し選択制になっているので税負担軽減誘因していることに問題がある。

生前贈与を累積課税すべきだ。暦年課税は廃止する可能性を議論すべきだ

2-8 神津里季生委員

収入、貯蓄格差がコロナにより拡大しているのでは。一生累積課税方式がよい。

2-9 赤井委員(大阪大学教授)

どこまで遡りやすいのか、という観点が必要。アメリカは生涯とあるが、本当に生涯課税なのか。その期間について検討するべきだ。デジタル化がすすみ、マイナンバーで把握できればよいかと考える。

2-10 田中委員(醍醐ビル㈱代表取締役社長)

事業者にとって相続は弊害が生じることがないようにして欲しい。生前贈与は遺留分の議論がある。家族内の承諾がなければ出来ないので、うまく(事業)承継できない場合が生じるかも知れない。

その他の法制度も含めて検討する必要がある。(事業の後継者が負担する遺留分のために事業継続できないと困る、という意味かと解釈)

2-11 清家委員

年を取ってからもらう方がいい(社会保険料の話をしていた)

2-12 熊谷委員

(他の人が既に話したこととほぼ重複)アメリカのように生涯累積課税は執行が困難。ドイツのやり方は参考になる。

2-13 大田委員

①相続税と贈与税の一体化に賛成。80歳以上でなくなるのが70%以上ならば15年の贈与加算は短い。デジタル化で生涯課税がよいのでは。

②贈与税の非課税は、富裕層優遇であるから反対する。経済活性化より税の再分配化を優先するべき。

2-14 佐藤委員

相続税課税は強化すべき。移転時期の中立性の担保は大切だ。30頁が肝かと思う。贈与はフローだが、相続税はいわばストックだ。その齟齬の解消が贈与の生涯累積課税なのであろう。

贈与の度に納税する方が徴税の取りこぼしがないので良い。

相続時精算課税制度は、少額贈与でも申告しなければならないので使い勝手が悪いのでは。

贈与税の累積課税化で相続税との一体化するのはいい。

2-15 田近委員

相続税の基礎控除を下げる(600万円を500万円にするのか)議論や、非課税の議論を深め、相続課税強化を議論しても良い。

全体の8.5%の方が相続税納税しているが、税収を上げたいのか、本件の議論は何に焦点をあてて話しているのかクリアにすべきだ。

2-16 辻委員(一橋大学大学院法学研究科教授)

中立にすることに賛成。しかしどこかが課税強化になる。土地から金融資産に移るときに課税逃れが発生する。

デジタル化の環境が整っていく中で課税逃れが抑制されるのか発生するのか、その感触に興味がある。

2-17 宮永委員(三菱重工業㈱取締役会長)

中立性に賛成。個人が行動するとき、相続の時期の違いによって問題が発生するとき、贈与税と相続税を一体化するときに税率や制度、制度の担保が必要では。制度が変更ばかりだと、

税の話ではないが、格差の是正だとか固定化防止ならば、相続税贈与税の税収について、教育の問題など周辺議論を深めるべきだ

2-18 岡村委員

①中立的な税制が実現したとして、資産移転の時期への影響はどの程度かと思う。(限定的であろう?)高齢者は資産の貯蓄は維持したいであろう。

②中立性の中身について。神津委員から贈与と相続は異なるという議論があった。贈与は受贈者の選択(それはもらう、それはいらない)があるが、相続は包括的なものである(借金も含めて)。足してひけばいい、という考え方とは違うのではないか。アメリカでも完全中立ではない。

③日本の現行制度は、誰と誰の公平性なのかが分かりにくい。遺産税か遺産取得税のどちらかであるとなってからの方が議論がしやすい。(遺産税支持に寄っているかな?)

被相続人は1人だが、相続人は何度も相続取得がありえる。そのため、1回の課税の方が分かりやすい。(税の執行方法を優先した考えは良くないが、という前置きがあった)

当時の法定相続分取得方式を採用した時には、兄弟が多かった時代背景があった(家督相続の名残があったから、という意味かと思う)から良かったが、今は(出国や離婚などがあるので)どうなのであろうか。

贈与税は相続税の補完税だったのであるが、これからは贈与税がベースになり、課税されなかった残りに相続税がかかる仕組みになる。そうすると今の贈与税が現行制度でよいのかという議論も必要になる。(贈与税の非課税。扶養義務者間の生活費非課税の論点。富裕層とプア層で異なるのが問題なのでは、という視点)

相続税・贈与税は、財産を取得しない限り課税されない。実は経済的利益を移転する方が簡単である。親の不動産に子に無償で住まわせていても贈与税がかからない。経済的利益に課税がないのは不公平では。

・中里会長

民法との連動を考えていない。重要な論点である。問題が発生しないように議論すべきだ。

2-19 足立委員(甲南大学経済学部教授)

(ほぼ既出論点)暦年課税と相続時清算課税制度、相続税との税負担の不公平が発生しているのは良くない。

税務当局の過度な事務負担を担わせる必要がないのでは。

贈与税の非課税措置法についてはしっかり議論すべきだ。

・財務省ヨシズミさんの回答

公平性の観点、適正な税務執行の担保、など様々なご意見をありがとうございます。

課税逃れについて、デジタル化が進めば今までよりも資するのではと感じるが適正な税務執行により公平性が担保されると考えている。

各国の制度や相続時精算課税制度の実態をよく勉強致します。

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中里会長

デジタル化がどちらに作用するのか、両方でしょうが、継続的に見るべきですね。

諸外国の制度が相続税負担を回避させず(?)世代間移転の阻害しない仕組みを参考にすべきだ

専門家会合で議論されてはどうか。座長は辻先生はいかがでしょうか。

次回は年明けを予定しています。

 

投稿者: 小野寺 美奈

税理士。農業経営アドバイザー試験合格者。認定経営革新等支援機関。相続診断士。FP。 川崎市・東京多摩地方を中心にした、地域密着・現場主義。 税務の記事はご自身で税法を確認されるか個別に有料相談に来てくださいね。