30.6 相続税対策で借金で不動産を購入して節税。失敗例。
わたしはこういう対策は好きじゃない。当初から勧めてきたのは銀行さんなわけだ。銀行さんはお金を貸しても土地を担保で抑えてるんだから、利息分で儲かる仕組みになっているんじゃないの。リスクを分かっててやったんですよね。
国税不服審判所HPより H29.5.23裁決 → http://www.kfs.go.jp/service/JP/107/07/index.html
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・裁決事例では
平成29年5月23日国税不服審判所の裁決では、「節税目的で借金で不動産購入スキームをやったよね。財産評価基本通達を過度に利用したよね。他の人から見たらズルいよね。だから通達評価はダメ。」です。
本来は〇億円の財産に相続税が課せられるはずが、銀行や親族からの借金をバンバン行い不動産を購入し、相続税がゼロ、となりました。スゴーイ。
・重視されたと思われる論点
感情論として、金持ちだけが出来る手法であり、一般ピープルから見たらズルイ!印象があるので、財産評価通達によった評価をNGとしたようです。印象が悪かったんじゃないかと感じた事実は以下の通り。
銀行の〇〇診断という相続税対策を始めた同時期に孫と養子縁組を行った。
銀行との稟議書・契約書にバッチリと「相続税対策目的で借金をして相続税負担軽減目的の不動産を購入する」と記録が残っていた。
親族(相続人たち)からの借り入れ金額が多額で数回に及んでいた。(不自然)
節税スキーム不動産の取得価額が100とすると、当初申告の相続税評価額が30であり相当乖離している。その差額、数億円。(金持ちだからできた)
たくさん銀行から借り入れが出来たのは、被相続人が所有していた法人も土地を持っていて、そちらに抵当権をつけることができたから。(金持ちだからできた)
節税目的不動産を借金で購入後、相続人は申告後半年ほどで売却した。
・陥りがちなミス
こういう裁決の結論だけを見て、「財産通達評価しても否認されるかも!無難で否認されない数字で計算して多めに相続税を計算しておく」は陥りがちなミス。
詳細を読めば、「金持ちだからダメ」という訳ではないということが分かる。総合的に考えられていることが分かる。
争点は、1つだけで判断されないということは、裁判傍聴を通じて肌感覚で身についてきたゾ。
今回のケース、仮に10億円の課税財産洩れだとして、法定相続人5人(子が4人)なので・・・3億4千万円の相続税と延滞税・過少申告加算税が追徴!しかも事業承継者が孫養子だから2割加算。ウヒョ~。
本来負担すべき相続税3億4千万円は仕方ないとして、過少申告加算税3,400万円と銀行に対するフィーと銀行への支払利息は勉強代ですね。
・借金をして不動産購入節税スキーム
借金で不動産購入し相続税を軽減しようというスキームは、昔から不動産会社や銀行が提案する「節税」スキーム。税理士は教えてくれない!とか書いてあるヤツだ。
(有用な場合があんまりないので良心的な税理士はキャッシュバックをやると言われても積極的に勧めないことが多い。冷静に考えられない人が多い)
不動産は相続税や贈与税の計算上、低めの金額でカウントしていいというルールがある。
借金は相続税の計算上、残りの返済する金額をマイナスの財産として計上する。
”10,000円で借金して不動産を購入して翌日にコロリと死んだら、相続人は、7,000円のプラス財産と10,000円のマイナス財産を相続することになる。
アレッ3,000円がどこかへ消えましたね、ジャジャーン!3,000円相当の財産部分について、相続税が安くなりました、良かったですね!税理士さんて不勉強だから教えてくれないんですよ、さぁハンコを!”
これが「借金で不動産を購入して節税」スキームです。
相続税を減らすため「だけ」に借金をして、大事な子へ借金と賃貸用不動産を相続させて、子に長期間に亘る利息を払わせて、不動産に借り手がいなければ子の給与や年金から借金返済させて、それがお望みのことですか!?
目先の耳触りの良い話を鵜呑みにせず、相続人の方とよく話し合ってください!と言ったことがある。
それから連絡がないけど、どうしたんでしょう。
・なぜ、不動産の財産評価を低く計算するのか
相続税・贈与税の計算では、ゲットした財産を今この瞬間にキャッシュに換えた金額について税金がかかるしくみになっている。
所有する不動産はコンビニやスーパーで売っていないため値段が書いていない。そうすると、「今売ると、この不動産はナンボ?」がよく分からない。
(ネット見積もりとかもあるけど、あれはあてにならぬ。営業マンが来て帰ってくれなくなるだけ)
不動産は、相続税や贈与税の計算上「時価」よりも低く計算してイイヨ、ということになっている。なぜなら、不動産は大至急現金化しようとすると買い叩かれるから、換金性が低い。
借金を相続した場合には、その背負った負債額はもらった相続財産と相殺してイイヨ、というルールになっている。もらった相続財産で借金返済するとイッテコイになるから、借金分を相殺させてくれないとそれはもう事件ですよ。
だから、誰かが借金-10をして不動産を購入して翌日コロリと死ぬと、遺族である相続人はもらった不動産7というプラスの財産よりも多い借金-10を相続する計算になり、不動産を安めに計算した差額部分3だけ(借金で不動産購入をしなかった場合と比べて)相続財産が圧縮されるわけです。ジャジャーン。
・東京地裁(平成4年3月11日)も似たようなことが書いてるらしい。確認しておこう、自分への宿題だ!
・以下は裁決の引用(自分メモ)
・相続税 時価は財産評価基本通達で計算、という理由
簡単に分からないし、客観的な時価をめいめいが勝手に主張し始めると不公平になるし課税庁が大変だから、という趣旨
相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。
しかし、客観的な交換価値というものが必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、相続財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、そこに定められた画一的な評価方法によって相続財産を評価することとされている。これは、相続財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法を採ると、その評価方法、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることが避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等からして、あらかじめ定められた評価方法によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものと解される。
・財産評価基本通達に従うと不公平になる場合
財産評価基本通達で計算してネとは言うが、その通達に従うと不公平な感じが出ちゃうときは通達ではない方法で計算すべきだ、とのことです。
租税平等主義という観点からして、評価通達に定められた評価方法が合理的なものである限り、これが形式的に全ての納税者に適用されることによって租税負担の実質的な公平をも実現することができるものと解されるから、特定の納税者あるいは特定の相続財産についてのみ評価通達に定める方法以外の方法によってその評価を行うことは、たとえその方法による評価額がそれ自体としては相続税法第22条の定める時価として許容できる範囲内のものであったとしても、納税者間の実質的負担の公平を欠くことになり、許されないものというべきである。
・財産評価基本通達をシカトしてOKなとき
なんか不公平、な気がするときは財産基本通達をシカトしてよいようです。
評価通達に定める評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、富の再分配機能を通じて経済的平等を実現するという相続税の目的に反し、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかな場合には、別の評価方法によることが許されるものと解すべきであり、このことは、評価通達において「通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定められていることからも明らかなものというべきである。
相続財産の評価に当たっては、特別の定めのある場合を除き、評価通達に定める評価方法によるのが原則であるが、評価通達によらないことが相当と認められるような特別の事情のある場合には、ほかの合理的な時価の評価方法によることが許されるものと解するのが相当である
・過度な節税の否認は租税法律主義セーフ
今回の過度な節税目的は「特別な事情」に該当するので、今回のルールを守った上での過度な節税の否認は、租税法律主義には反していないそうです。
請求人らは、本件被相続人に節税や租税回避の目的があったような事情をもって特別の事情があると判断することは許されず、このような判断が許されるとするならば、課税庁による恣意的な課税が可能になり、租税法律主義に反する旨主張する。
しかしながら、特別の事情が認められるのは上記イのとおりであり、これに基づき上記ハのとおり判断したところ、その際に、本件被相続人に相続税の負担の軽減という目的があったことを特別の事情の有無を判断する上で考慮することは許されるものであり、このように解したとしても、特別の事情がない限り、課税庁としては、評価通達に定める評価方法以外の方法による評価を採用することが許されないのであるから、租税法律主義に反することにはならないというべきである。
・課税庁が通達を無視するのは恣意的課税を許している?
課税庁の通達評価による課税処分がいつも正しいわけでもなく、時価よりも上回ることがないようにネ、という趣旨が財産基本通達である、と不服審判所は見ているようです。
請求人らは、納税者が通達評価額を下回る価額を課税価格に算入して申告をした場合には、課税庁が評価通達に定める評価方法によらないことを理由に通達評価額により課税処分を行うことから、この点に課税庁による評価通達の使い分けの問題があり、本件各更正処分が許容されるならば、課税庁による恣意的課税を許すことになる旨主張する。
しかしながら、課税庁が、通達評価額を上回る評価額を採用する場合には、上記イのとおり、評価通達によらないことが相当と認められる特別の事情のあることが要求される。他方で、課税庁が通達評価額を採用する場合にも、課税処分が常に適法になるわけではなく、通達評価額が、対象財産の客観的な交換価値を上回るものではないことが要求されると解すべきである。
したがって、課税庁が、評価通達に定める評価方法による評価額を採用するか否かについては、相続税法第22条及び租税平等原則の両面からの規制を受け、これを恣意的に決定することはできないというべきであり、この点に関する請求人らの主張は採用することができない。
・22条の時価と相続税評価額
「時価」という名前に振り回されていますが、相続税法22条の時価は、「優しめの時価」と思っているようです。
請求人らは、本件各鑑定評価額は、自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価額を前提とするのに対し、相続税法第22条にいう時価は、それとは異なり、控えめな評価額を採用している路線価に基づく価額をいうから、本件各鑑定評価額をもって同条にいう時価ということはできない旨主張する。
しかしながら、上記イのとおり、相続税法第22条にいう時価は、客観的な交換価値、すなわち財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額にほかならないと解されるから、本件各鑑定評価額をもって同条にいう時価であると認めることに支障はないというべきである。