2つの期限後申告と小規模宅地等の特例の適用関係について

2019.9.1 小規模宅地等の特例は、相続税申告期限内に何かしらアクションをしなければ受けられない、という私個人の見解について。

※個々の事情により、適用関係は異なりますのでご参考まで

小規模宅地等の特例は、申告期限までに申告書の提出が必要です。後出しは基本的に無理!と思っていただき、相続が発生したら早めに税理士に相談すること!税額が出なくても、申告が必要!

1、小規模宅地等の特例は、期限内申告が原則

小規模宅地等の特例は、自宅や事業用・貸付用の土地のうち一定のものについては相続税の課税価格を減額する、という特例。条件があります。

小規模宅地等の特例の適用を受ける条件のひとつに、相続税の期限内申告書にて「特例を受けます!」と税務署へ申告する必要があります。

小規模宅地等の特例は、遺産分割が決まらなければ適用がないのだけれども、相続税の申告期限(相続開始があったことを知った日から10カ月が経過する日)までに話し合いがまとまらない場合には、「後で受けたいです」という分割見込み書を提出していれば、3年間は特例適用の延長的な扱いを受けることができます。

つまり、何が言いたいのかというと、小規模宅地等の特例を受ければ相続税額が発生しないからといって相続税申告書の提出をサボると、後から追徴されてもしょうがないですよ、ということです。

2、小規模宅地等の期限後申告について

7月8月と、2人の税理士さんから言われた。

「小規模宅地等の特例は、期限後申告でも受けられる」

うーむ、それは相続税法の特則の期限後申告を指しているのであって、国税通則法18条の期限後申告とは違うのではないか、というのは私の見解であります。

単純に、期限後申告には2種類あること、未分割の場合の分割見込書の意義を考えると、本能的な違和感があります。(税理士試験のおかげです!)

3、そう思う理由

(1)国税通則法18条

国税通則法は、国税全体ルールです。だから、「期限内申告書を提出すべきであった者」と書いてあり、特定の税法を指定していない。

「申告期限を過ぎても、税務署長に税額を決められちゃうまでなら、申告書を提出してOKだよ!」と書いてある。納税義務があるのに申告していない人は、自首しましょう!

(期限後申告)
第十八条 期限内申告書を提出すべきであつた者(所得税法第百二十三条第一項(確定損失申告)、第百二十五条第三項(年の中途で死亡した場合の確定損失申告)又は第百二十七条第三項(年の中途で出国をする場合の確定損失申告)(これらの規定を同法第百六十六条(非居住者に対する準用)において準用する場合を含む。)の規定による申告書を提出することができる者でその提出期限内に当該申告書を提出しなかつたもの及びこれらの者の相続人その他これらの者の財産に属する権利義務を包括して承継した者(法人が分割をした場合にあつては、第七条の二第四項(信託に係る国税の納付義務の承継)の規定により当該分割をした法人の国税を納める義務を承継した法人に限る。)を含む。)は、
その提出期限後においても、第二十五条(決定)の規定による決定があるまでは、納税申告書を税務署長に提出することができる。
2 前項の規定により提出する納税申告書は、期限後申告書という。
3 期限後申告書には、その申告に係る国税の期限内申告書に記載すべきものとされている事項を記載し、その期限内申告書に添付すべきものとされている書類があるときは当該書類を添付しなければならない。
(2)相続税法30条

相続税申告は所得税や法人税・消費税と違い、自分以外の事情に左右される税金です。

なので、きちんとしていても、環境により後から納税義務が発生することがあるので、上記の国税通則法と切り離して、相続税法の特則がある、と私は思っている。

未分割財産を分けたら納税義務が発生した・遺留分を請求した・遺言書が出てきた、など、事情により税額の変動がある場合には、期限内申告と同一視して納税者の不利益にならないようにしてあげている、というのが私の見解。(延滞税もないみたいだし)

小規模宅地等の特例については、相続税法の特則の「家族の話し合い等により納税義務が発生した場合の期限後申告書」であれば、小規模宅地等の特例を受けることが出来る、というのが私の見解であります!(他にも留意すべき点は色々ある)

期限後申告は「提出してもOK」という規定になっている。これにもちゃんと理由があるのだけれど、今回は割愛します。

相続税法27条は相続税額が発生する場合(本件では特例適用前、と思っていてOK)には申告期限までに申告しなさい、という法律です。

相続税法32条は、更正の請求の特則です。

(期限後申告の特則)
第三十条 第二十七条第一項の規定による申告書の提出期限後において第三十二条第一項第一号から第六号までに規定する事由が生じたため新たに第二十七条第一項に規定する申告書を提出すべき要件に該当することとなつた者は、期限後申告書を提出することができる。
2 第二十八条第一項の規定による申告書の提出期限後において第三十二条第一項第一号から第六号までに規定する事由が生じたことにより相続又は遺贈による財産の取得をしないこととなつたため新たに第二十八条第一項に規定する申告書を提出すべき要件に該当することとなつた者は、期限後申告書を提出することができる
(3)小規模宅地等の特例 措置法69条4
前述通り、小規模宅地等の特例は、自宅や事業用・貸付用の土地のうち一定のものについては相続税の課税価格を減額する、という特例。
(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
第六十九条の四 個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、
(中略)
「小規模宅地等」という。)に限り、相続税法第十一条の二に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に次の各号に掲げる小規模宅地等の区分に応じ当該各号に定める割合を乗じて計算した金額とする。
(中略)
4項には、以下に引用の通り、期限内申告書の提出期限までに「分割されていないもの」には適用がない、とされている。
ただし、未分割であっても、申告期限内に対応しておけば後から小規模宅地等の特例は受けられる。
なるほど。「国通法上の期限後申告でも小規模宅地等の特例が受けられる」の認識は、この4項と7項の読み方の違いなのだろうか?(税理士さんにそれを聞いたときはノータイムで「そんなわけないっしょ」と言ってしまった)
・・・それとも、私の知らない何かがあるのかしら?
4 第一項の規定は、同項の相続又は遺贈に係る相続税法第二十七条の規定による申告書の提出期限(以下この項において「申告期限」という。)までに共同相続人又は包括受遺者によつて分割されていない特例対象宅地等については、適用しない。
ただし、その分割されていない特例対象宅地等が申告期限から三年以内(当該期間が経過するまでの間に当該特例対象宅地等が分割されなかつたことにつき、当該相続又は遺贈に関し訴えの提起がされたことその他の政令で定めるやむを得ない事情がある場合において、政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、当該特例対象宅地等の分割ができることとなつた日として政令で定める日の翌日から四月以内)に分割された場合(当該相続又は遺贈により財産を取得した者が次条第一項の規定の適用を受けている場合を除く。)には、その分割された当該特例対象宅地等については、この限りでない。
(中略)
7項には、小規模宅地等の特例の申告要件について記載がある。
相続税法27条の普通の期限内申告書に記載があり、明細書などの添付がある場合に限り、小規模宅地等の特例の適用がある、と書いてある。
相続税法27条は、相続税申告の法律。ざっくり言うと、10カ月以内に申告、という法律です。
相続税法29条は、相続財産法人に係る財産を与えられた者に係る相続税の申告書の法律。今回は度外視でOK。
7 第一項の規定は、同項の規定の適用を受けようとする者の当該相続又は遺贈に係る相続税法第二十七条又は第二十九条の規定による申告書
(これらの申告書に係る期限後申告書及びこれらの申告書に係る修正申告書を含む。次項において「相続税の申告書」という。)
に第一項の規定の適用を受けようとする旨を記載し、同項の規定による計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。

4、結論

措置法69条7には、「期限内申告書」にカッコ書きがあり、「27条の申告書に係る期限後申告書及び27条の申告書に係る修正申告書を含む」と書いてある。
この書き方から、小規模宅地等の特例の「期限後申告」は相続税法の特則のみを指しているのではないか?
もし、国通法上の期限後申告でも小宅OKなら、措置法69条7には「相続税申告書」という書き方でよかったはず。カッコ書きがある理由を考えた。
相続税申告について、当初申告をサボると国税通則法18条の期限後申告に該当するため、小規模宅地等の特例を受けられない、というのが私の結論。
夏休みの宿題は以上です。(休んでないけど!)

投稿者: 小野寺 美奈

税理士。農業経営アドバイザー試験合格者。認定経営革新等支援機関。相続診断士。FP。 川崎市・東京多摩地方を中心にした、地域密着・現場主義。 税務の記事はご自身で税法を確認されるか個別に有料相談に来てくださいね。