忘れられた寡婦寡夫控除?合計所得金額500万円

2019.7.20 納税者の方から、寡婦寡夫控除についての質問を受ける。2020年から施行の基礎控除振替えの税制改正、まさかの寡婦寡夫控除について便乗増税疑惑。おのでらが無知なだけだと信じたいんです。

1、税制改正で10万円が基礎控除に振替え

納税者の方から「平成32年(2020年)から、給与所得控除や年金所得について10万円が基礎控除に振替えられるんですよね?」と話しかけてもらったわ。

(ありがとうございます m(__)m わたし、こういうお話を寄せていただくのが嬉しいの。)

わたし「そうなんですよ~。面倒ですよね。あれは働き方による違いにより差をつけないためみたいな改正で」

納税者「扶養関係って、年間の所得が38万円以下ならOKでしたよね?改正後はどうなるの?給与所得者が、扶養関係の税金関係で不利になっちゃう?」

わたし「大丈夫です!10万円をあっちからこっちに移動した関係で、38万円から48万円に変更になりますよ!国民健康保険などもそれにならって、減少する給与所得控除(年金控除も)の10万円分は底上げしてくれるって税制改正を読んだ覚えがあります、確か・・・」

2、寡婦寡夫控除の合計所得金額10万円分の行方

納税者「寡婦控除も?」

わたし「んん?」

納税者「寡婦控除って、所得が500万円というルールがありますよね?」

わたし「あ。はい、寡婦寡夫控除にはその年分の合計所得金額500万円以下というルールがありますね。未亡人や、特別の寡婦の適用の際に基準となる合計所得金額だけど・・・」

納税者「その500万円ルールも、給与所得控除から10万円が基礎控除に10万円振替えだから、給与所得者なら510万円に変わるんですか」

※2019.7.25追記:510万円にならない。500万円のまま。

わたし「うぬ?」

うーん、普通に考えれば税制改正の趣旨から考えて、給与所得者であれば給与所得控除が10万円減るのであるから、寡婦控除の合計所得金額の判定でも10万円は考慮すべきよね?

あれ・・・ちょっと自信がなくなってきた。

わたし「ちょっと、面白いから寡婦控除の合計所得金額について調べてみますわ!じゃぁね」ガチャ。

3、平成30年度 税制改正概要を確認する

財務省の平成30年の税制改正概要を読んでみよう!

財務省HPより 平成30年度税制改正の解説 → https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2018/explanation/index.html

ここにしっかりと書いてある、はず・・・。

が。寡婦控除の要件である、扶養親族の合計所得金額(38万円を48万円にします)としか書いてないぞ!

勤労学生控除や扶養関連についてはしっかり合計所得金額は48万円ネと書いてあるのに、だ。

ええ・・・。もっと深く法律を調べてみよう。

ん。合計所得金額500万円について言及がないな?

便乗増税なの?

それとも、寡婦控除の合計所得金額って、税制改正で手当てするの忘れちゃったの?

まさか、ね?私が無知なだけよね?

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4、条文を読んでみました

所得税法2条には、寡婦に該当するのはこういう人で、「(一部の人は)合計所得金額500万円をラインね」と書いてあったよ。

所得税法22条には、「合計所得金額(課税標準)はコレね」と書いてある。(この課税標準の条文に、”税制改正で10万円が基礎控除に引っ越ししたら加味するねっ”書けばよかったんじゃ・・・とか言ってもしょうがない)

所得税法施行令11条には、寡婦や寡夫の要件が書いてあり、ここでは500万円のラインについては記載がない。

租税特別措置法の41条17には、「特別の寡婦」の規定。500万円ライン以下の寡婦は、寡婦控除に7万円加算します、と書いてある。(特別の寡婦って措置法だった・・・。)

所得税法(定義)

(定義)

第二条

三十 寡婦 次に掲げる者をいう。
イ 夫と死別し、若しくは夫と離婚した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、扶養親族その他その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有するもの
ロ イに掲げる者のほか、夫と死別した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、第七十条(純損失の繰越控除)及び第七十一条(雑損失の繰越控除)の規定を適用しないで計算した場合における第二十二条(課税標準)に規定する総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額(以下この条において「合計所得金額」という。)が五百万円以下であるもの
三十一 寡夫 妻と死別し、若しくは妻と離婚した後婚姻をしていない者又は妻の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有し、かつ、合計所得金額が五百万円以下であるものをいう。
※ 合計所得金額とは。
所得税法2条30項に記載がありました!合計所得金額だけで独立して定義していないのは不親切ね。
課税標準に近いけども、前年以前の損失の相殺する前の金額、と言いたいのですわ。今年の所得で判断したいみたいね。
所得税法(課税標準)
(課税標準)
第二十二条 居住者に対して課する所得税の課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。
2 総所得金額は、次節(各種所得の金額の計算)の規定により計算した次に掲げる金額の合計額(第七十条第一項若しくは第二項(純損失の繰越控除)又は第七十一条第一項(雑損失の繰越控除)の規定の適用がある場合には、その適用後の金額)とする。
一 利子所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、給与所得の金額、譲渡所得の金額(第三十三条第三項第一号(譲渡所得の金額の計算)に掲げる所得に係る部分の金額に限る。)及び雑所得の金額(これらの金額につき第六十九条(損益通算)の規定の適用がある場合には、その適用後の金額)の合計額
所得税法施行令(寡婦の範囲)
(寡婦の範囲)
第十一条 法第二条第一項第三十号イ又はロ(寡婦の意義)に規定する夫の生死の明らかでない者で政令で定めるものは、次に掲げる者の妻とする。
一 太平洋戦争の終結の当時もとの陸海軍に属していた者で、まだ国内に帰らないもの
二 前号に掲げる者以外の者で、太平洋戦争の終結の当時国外にあつてまだ国内に帰らず、かつ、その帰らないことについて同号に掲げる者と同様の事情があると認められるもの
三 船舶が沈没し、転覆し、滅失し若しくは行方不明となつた際現にその船舶に乗つていた者若しくは船舶に乗つていてその船舶の航行中に行方不明となつた者又は航空機が墜落し、滅失し若しくは行方不明となつた際現にその航空機に乗つていた者若しくは航空機に乗つていてその航空機の航行中に行方不明となつた者で、三月以上その生死が明らかでないもの
四 前号に掲げる者以外の者で、死亡の原因となるべき危難に遭遇した者のうちその危難が去つた後一年以上その生死が明らかでないもの
五 前各号に掲げる者のほか、三年以上その生死が明らかでない者
2 法第二条第一項第三十号イに規定するその者と生計を一にする親族で政令で定めるものは、その者と生計を一にする子(他の者の同一生計配偶者又は扶養親族とされている者を除く。)でその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額が基礎控除の額に相当する金額48万円以下のものとする。
(寡夫の範囲)
第十一条の二 法第二条第一項第三十一号(寡夫の意義)に規定する妻の生死の明らかでない者で政令で定めるものは、前条第一項各号に掲げる者の夫とする。
2 法第二条第一項第三十一号に規定するその者と生計を一にする親族で政令で定めるものは、その者と生計を一にする子(他の者の同一生計配偶者又は扶養親族とされている者を除く。)でその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額が基礎控除の額に相当する金額48万円以下のものとする。
※太文字「48万円」はおのでら追記。平成30年度税制改正。施行令より。財務省HP 施行令の新旧対照表PDF → https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2018/seirei/shinkyu/syotoku_01.pdf
租税特別措置法(特定の寡婦)
(寡婦控除の特例)
第四十一条の十七 居住者が、所得税法第二条第一項第三十号イに掲げる者(同項第三十四号に規定する扶養親族である子を有するものに限る。)に該当し、かつ、同項第三十号の合計所得金額が五百万円以下である場合には、同法第八十一条第二項に規定する寡婦控除の額は、同条第一項の規定にかかわらず、同項に規定する金額に八万円を加算した額とする。
2 前項の規定の適用がある場合における所得税法の規定の適用については、次の表の上欄に掲げる同法の規定中同表の中欄に掲げる字句は、同表の下欄に掲げる字句にそれぞれ読み替えるものとする。
第八十五条第一項
寡婦
租税特別措置法第四十一条の十七第一項(寡婦控除の特例)の規定に該当する寡婦若しくはその他の寡婦
第百九十条第二号ハ
)の規定
)並びに租税特別措置法第四十一条の十七第一項(寡婦控除の特例)の規定
第百九十四条第一項第二号
寡婦
租税特別措置法第四十一条の十七第一項(寡婦控除の特例)の規定に該当する寡婦若しくはその他の寡婦
第二百三条の三第一号ハ
二万二千五百円
二万二千五百円(当該公的年金等の受給者が租税特別措置法第四十一条の十七第一項(寡婦控除の特例)の規定に該当する寡婦である旨の記載がある場合には、三万円)
第二百三条の五第一項第二号
寡婦
租税特別措置法第四十一条の十七第一項(寡婦控除の特例)の規定に該当する寡婦若しくはその他の寡婦
※おのでらサポート

上記の表みたいなやつ、読みにくいよね?条文コピペしたのだけれども。見づらっ。

85条は、扶養親族の判定の時期のこと。

190条2は、年末調整のはなし。

194条は、給与所得者の扶養控除等申告書のはなし。

203条3は、年金受給者の源泉所得税のはなし。

203条5は、年金受給者の扶養親族等申告書のはなし。

投稿者: 小野寺 美奈

税理士。農業経営アドバイザー試験合格者。認定経営革新等支援機関。相続診断士。FP。 川崎市・東京多摩地方を中心にした、地域密着・現場主義。 税務の記事はご自身で税法を確認されるか個別に有料相談に来てくださいね。