政府税調 16回 総論的意見 委員の意見 学者のビンタ張り合い回

2022.9. 政府税調16回。超過負担。税に関する総論的議論(経済学的な議論の紹介)の、委員からの意見を聞いたメモです。(書き起こしではありません)

政府税調 16回、令和4年9月16日開催。今回は委員からの意見を聞いたメモです。

政府税調 16回 → https://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2022/4zen16kai.html

土居委員の総論・超過負担(前回の記事)→ https://mina-office.com/2022/09/28/seifu-zeicho-16-choukafutan/

納税環境整備・相続税贈与税 おのでら予想(次回の記事) → https://mina-office.com/2022/09/29/seifu-zeicho-16-senmonka-yosou/

おのでらの感想

研究者同士のビンタの張り合いもあり、学会ってこんな感じなのかな!を楽しめました!専門的な議論がビシバシ飛び交ってました。

消費税の累進課税、神野先生の総論(富裕層の税)、財政民主主義、二元所得税(労働所得と資本所得)、が読みどころです!

土居先生のプレゼンから勉強をして、私の考えとは全然違うな~と思えたのがとても良かった。色んな意見が出たのは、土居先生のおかげですね。ビンタお疲れさまでした。

委員からの意見・質問

(挙手がなかったようで沈黙が続く)30.0

佐藤主光委員(経済学の教授)

最適課税論の専門なので皆さんが考えている間に。補足だけ。

最適課税論には、計量的な議論と定量的な議論がある。ピケティなどが研究している。

(最適課税論は)最適な税率はいくらかということ。所得の分布と課税所得の弾力性、税に対して人々がどう反応するのか、不平等回避論、社会的な価値観を持ち合わせれば、最適な税率が出るから。

エビデンスに基づいた具体的な議論ができる。

現実は複雑なので単純に決まるわけではないが、今の消費税率が高いのか低いのかが判断する一つのカギになる。最適課税論は、抽象的なものではない。

最適課税論が影響されたのは、消費税がいい税目か、生産効率性命題。

土居先生のお話にもセカンドベストという単語があったが、超過負担はやむを得ないが、消費を歪めるのは良いが、生産のプロセスをゆがめてはならないという考え。消費税は仕入税額控除があるから生産過程は歪ませないのが良い

地方税の視点からだと、地方消費税は地域差による税率差がないので歪みがない。

経済学者はキャッシュフロー課税が大好きなのですが、生産過程は歪まれないから。最適課税論からの示唆になる。

経済学者は軽減税率が嫌いなのですが、税目の棲み分けの話で、公平性は所得課税で、財源確保は消費税でやるべきだ、と考えている公平性からの視点からならば、軽減税率よりも所得税の給付付き税額控除がよかったのはそういう考えに基づいている。だから、経済学者は軽減税率に反対した。

最適課税論から税制改革での示唆はあるのかなと思う。

33.42

林委員(経済学の教授)

面白い報告をありがとうございます。コメントを。

中立という言葉は、経済学者が無理やり結び付けているだけに聞こえる。税を変えることで行動を変えることは~(この辺りは長くて専門用語も多くて私にはよく分からなかった)、経済学的に意味があるのかと(疑問がある)。

土居先生のお話された最適課税論は、最適課税論をよく知らない人の議論であり~(と聞こえたけど?)

逆弾力性命題、数学的に、まったく同じ個人で成り立っている世界なのか異なる個人かのそれなのか、100万円を税負担するならば、間接税でとるなら、弾力性が高いところから低いところから取ると低所得者が困るではないか~(この辺りも私にはよく分からない)

取り違えられた議論だ。

公平性を考えない議論が中立性である。

70年代のマーリーズが出てきてからの議論、公平性と税率の歪みの両方を考えた議論が紹介されるべきでは。佐藤委員が所得税との議論、最適課税論はひとつのまとまり(効率性と中立性が一つのまとまり、の意味)として考えられているということをご認識いただければと思う。

(おのでら:部分的に分からない点があったけど、要するに研究者同士のビンタの張り合いみたいな感じ?)

土居委員からのコメント

おっしゃる通りで、今日は中立の原則に絞るという意味であえてこの話のみをしたが、効率性と公平性を合わせもって議論するべきだ。垂直的公平はなにをもってベストというかは価値判断による、現代的な最適課税論では様々な価値観による。垂直的公平性は価値観はそれぞれなのでどれくらい公平にすればいいのかを場合分けしながら議論するため、区別するべきだと考えている。

岡村委員(法学部教授)<消費税の累進課税>

資料6頁、超過負担の図について。この三角形について、下半分は誰に帰着しているのか、消費者に帰着しているのかという質問が1つ。

説明の中で、消費税又は一般消費税とおっしゃっていますが、私たちが日常的に負担している(消費税法上の)消費税のことを指しているのか、そうではないのか、について。間接税ではない消費税への示唆なのか。年金課税のEET※や退職金課税、所得税の中で、累進的な消費税を捕まえているのかという示唆があるのか、質問したい。

(※おのでら注:年金課税のEETは、拠出時と運用時は非課税で受取時に課税すること。OECDに多い。日本の公的年金もEET、拠出時と運用時は非課税、受取時に一部課税されています)

今の帰着の話にもなるが、所得としての課税は個人単位、消費としての課税は家族単位という視点もあると思うが、回答いただきたい。

土居委員の回答

6頁はラフな説明になるので微分積分を知らなくても税率の2乗になることを説明できるように(こじつけにも)なっているので、厳密にはそうではない。赤い部分が超過負担になる、誰かに負担するかつては生産者が負担していたが今はそうではなくなったという説明と思っていただければいい。

累進的な消費税という意味では、かつては支出税という考えがありましたが、デジタル化でプライバシーをあまり侵害せずに、消費情報を把握できれば累進的な消費税課税は未来的には可能かもしれないが、相当ハードルが高く、税の実務に持ち込めるかは疑問。夢想しています。(累進的な消費税について、土居先生は消極的に感じました)

消費が家族単位になっているという意見はその通りだと思う。我が国は個人課税になっているので、家族単位に持ち込む部分は消費課税は家族単位で課税していると考えれば~ 間接的な政策手段による誘導が解釈できなくはない。

(おのでら:消費税の累進課税、家族単位による税負担という考えについてビンタの張り合い。内容は非常に興味深いですネ)

46.0

吉村委員(法学科の教授)

分かりやすい説明をありがとうございました。公平・中立・簡素の原則とトレードオフの関係性が強調されている。

中立性について、税制が企業や個人の選択を歪めないようにするならば、水平的公平と独立して強調する意義があるのか、を経済学の専門外なので質問したい。

土居委員の回答

シャウプ勧告の原文に当たった。中立の原則の話かと思うと公平の話であったりした。解釈の仕方によるかもしれない。中立性を水平的公平として人々に想起させているのでは。

(おのでら:説明を聞く限り、水平的公平と独立して強調する意義はなさそう。)

増井委員(法学政治学)

グローバルな中で各国が租税競争をしている中、今日のお話はどのような外因を持つか?

土居委員の回答

まさに重要なご指摘で。各国の主権があるなか、経済学者が考えていることを体現できないと前置きをする。法人税は各国共通した考えを持つ、どこで立地しても仕組みが大きく異ならないよう(公平性)にするようになる。選択を歪ませないようにしていくだろう。各国共通は難しいとは思うが、租税条約で近づけるのが遅々とした歩みになるが、限度であろう。

★神野委員(東大名誉教授)<富裕層の所得税>

0.52

中立的な原則から包括的に、歴史的な観点もあり、よい発表だったと思う。

おそらくそうであろうが、課税原則、基本原則は個々の税法を考えるだけではなく、課税税目間で衝突が起こるので、3つの原則を各税法の調整、税体系全体でバランスをとって盛り込んでいくかという発想でいいですよね?

その観点からいうと(神野先生が専門のドイツ財政学からいうと)、中立は経済政策上の原則に入っている。簡素は税務行政上の原則としてまとめられてきた。

(日本はドイツと比較し)財政学上の原則が抜けて落ちている。危機的状況が起こると、ちょっとした税の変化で税収を確保してしまう。という問題がある。

シャウプ勧告は、税体系をガラス細工のように自分たちでバランスを取ったと考えている。どこも変えちゃいいかんと言わんばかり。

税率を操作するよりもベースを広げる方が全体の税体系がうまくいくのだ、といのが重要な観点だ。こっちの税金で得しようとするとあっちの税金が増える、という税体系で課税原則を満たそうとしていることを評価している。

シャウプ勧告は書いている人が違うので、相続税贈与税はビックリー(誤字、ヴィクリー)が書いている。だから中立が入っている。(土居先生の)えいがん(恵眼?)です。この4つの原則、財政学上の原則を入れると、基幹税、税体系の基軸、ベースの広いもの、課税ベースを広げること、税率を引き上げるのであれば、富裕税みたいなものを考えているから、なんていうといいのか、べースの広い税体系を考えるのがいいのでは。

公平性の観点からも消費課税の考えも出ているが、所得税は負担能力を捕まえる限界があるということ。富裕者の社会保障になっている。富裕層に所得税がかからない現状がある。公平性の原則からもベースが広くて消費課税で補完してあげる、というのが負担の能力に応じ相互の関連性があるという考えでよいか。

(おのでら:東大の偉い先生のようで、書き起こしに近い形でメモしました。とても勉強になりますわね。しかも無料で!)

土居委員の回答

財政学上の原則が欠けているのはご指摘の通りです。神野先生はワグナーを想定されていると思いますが、マスグレイブの7条件が、3原則では表しきれないものが盛り込まれている。

3原則へ拘泥すべきでない(こだわらなくていい)、という考えはあってもいいと思う(が、土居先生は全然そうは思っていないようだ)

(長いし重複説明もあるため、略)

中空委員(証券会社役員)

勇気をもって手を挙げた、稀代の学者さんに囲まれていたが会場出席してしまったので何を聞いていいのか考えましたが勇気を出しました。

金融所得課税と炭素課税について、コメントをします。再投資すれば課税しない、という税制はどうか。炭素税の話がなかなか出てこないのはなぜか

消費税の増税が経済効果を下げないというが、岸田政権は10年間は消費税を上げないと言っているが、この10年で国民に説明することが肝要だと感じる。

優先順位は何か、私見で構わないので聞きたい。

(おのでら:再投資すれば税負担しない、は公平性の観点からは違うと思いますね。土居先生の回答も私には全然フィットしませんでした)

土居委員の回答

経済学の世界でも、資本課税と言っているが、効率性の観点から税負担は重くしない方がいい。再投資を促進したいため。

半面、資本所得課税に変えて消費課税ならばもっと効率的になる。3原則の中には税収中立は入っていないということになるが、政治的な実現可能性については経済学とは超越する。

炭素税について、外部費用(気候変動の源を作っている)を把握しにくい。当事者の企業も直接的な費用(CO2排出)に体現しているという実感が持てないだろう。

(おのでら:資本課税については全然賛同しないけど、そういう視点があるのかという驚き。とても冷徹に感じたけど、経済学者が効率性から国を支えようとする視点はこうなんだね。炭素税の説明は分かりやすくて、理解が深まりました。)

★佐藤委員 <財政民主主義>

1.11

10年ほど前、税の原則、中立化よりも経済活性化を重視したように思う。なぜ中立性なのかというと、あまり濫用してはいけないからだと考える。

世の中は非効率です。その非効率すべてに税が介入するのか、それは危ない。介入がうまくいくとも限らない、事実誤認かもしれない、それに政治的に濫用されてしまう。税について中立を原則としましょう、”原則”は破ってもいいが、その原則の逸脱には特段の理由が必要だと考える。

特段の理由について、炭素税の話だと思う。

生産効率性命題でも前提条件が必要。生産過程を歪めない、消費税(付加価値税)を変なことをしない(軽減税率をしない)、これがあって中立性が位置付けられている。中立性の原則は、保守的な原則だと考えている。

現在、中立性の原則から今は離れている。

(中立性の原則から離れていることとして、)優遇税制を入れている、たとえば賃金税制、研究開発費税制がある。税を経済活性化や経済活動の誘導というのか、そちらで使おうとしている。そのような政策の要請があるかもしれないが、ならば効果は明らかにするべき(逸脱ではないと証するべき?)。

税は財政民主主義があるから中立性は税の濫用させないという意味で大切だ。

公平性と中立性の議論はあるけど、簡素の議論がない。今後、フリーランスや副業が増え、確定申告する人々が増えるので、納税者の目線から税を簡素化することが重要だ。

(おのでら:それそれ!そういうやつ!今回、納税者からの観点を語ったのは佐藤先生だけよ。政治介入への牽制だいじ。政府税調って政府におもねってばっかりですもん。ガンバレ佐藤委員)

1.14

★梶川委員<労働所得と資本所得>

中空さんと同じ感情で意見を述べる。所得費目として異なる、所得課税として語られる。労働は~

投資行為の一定の優遇、他の税目から控除ができる、投資のリターンの全般を変化させた場合、一般の所得税の中立性と影響が大きいと考えるか小さいと考えるか、経済的な効果と税の所得費目でのものの考え方をどう整理したらいいのか?

土居委員の回答

課税理論の核心を突く話だと思います。労働所得の性質が違う、(投資の)所得の源が違う。異なる所得であるから完全に独立して決めているわけではないが、同じ一人が資本所得が増えれば労働所得が増えるかというと独立して判断している。

労働は1年に最大でも365日しか供給できないためフロー所得。資本所得は収入をコントロールし蓄積して累積して経済効果が発生する。資本所得を増税すると累積した経済効果が鈍るため経済的観点から好ましくないが、労働所得は人的資本の考え方があるが(来年も365日働けるから)今年も来年も働く、累進所得税を課すことで来年以降を引かない形で累進課税することは効率性を歪ませないようになる。

二元的所得税、資本所得に定率課税、労働所得は累進課税のバックグラウンドになっている。日本では資本所得は分離定率課税になっている。

(おのでら:質問内容は分からなかったけど、土居委員の回答を引き出した梶川委員ナイスです!しかし、私は資本所得は税負担が重いのがいいと思います。資本所得はお金持ちが圧倒的に有利だからです。労働にはあんまり課税したくない。誰でも同じ24時間だから。けど、資本所得は、最初から持ってる人もいるから、課税が重くてもいいと思う)

1.20

中里会長

理論的にシャープな議論は、卒業しちゃうとなかなか笑。先生方は当然ご存じのことを理論的に述べてくださりありがとうございました。総論として充実した議論をありがとうございました。

(おのでら:中里会長の”当然ご存じ”ってどういう意味?)

・これまでの有識者ヒアリングまとめ

政府税調 資料 → https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/4zen16kai2.pdf

資料を読み上げ。

貧困とデジタル化。

スタートアップ企業は赤字だから税よりも別の事をという話。

ジョブ型雇用、受益と負担の関係から職業訓練。

働き方改革と働き方の中立化と配偶者控除、子育て支援は社会保険料がよいか。

若い世代のセーフティネットの話。

企業のボーダーレス化や税務上の対応について。

SESと教育格差の関係、孤立への対応について。

・納税環境整備の専門家会合から報告

岡村委員(納税環境整備)書き起こし

1.26

有識者の方々からのヒアリングをふまえ、税務行政、納税環境整備の専門回会合について報告を述べる。

記帳水準の向上の観点から、納税者の手元の財務情報について納税者の負担軽減を踏まえつつ、デジタル化による、複式簿記・トレーサビリティにより適正性を高めるためにはどうすればいいのかを中心に議論してきた。

今後は、OECDプラットフォーム事業情報のモデルルールように第三者からのデジタル情報の活用による課税の適正化を進めていく方向である。

課税のデジタル化を通じた信頼性の高い税情報の活用、納税者の利便性向上、申告内容の適正性向上について、検討する必要があると考えている。

あわせて、誠実な納税者を守るためにも、税に対する公平性を損なう場合への対応を検討するべきと考えている。

高齢者など個別のサポート対応を取り上げてはどうかと考えている。

中里会長

ウィズコロナ時代への、国際化・デジタル化が進む税務手続きの適正化について重要なご指摘であると考えている。

先ほど佐藤委員からあった、簡素な税制への意見も踏まえ、総会への議論をまとめていただきたいと考えている。皆様、賛同いただけますか。

・相続税・贈与税の中立的な税制構築等<書き起こし>

1.29

中里会長より

相続税贈与税について、資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築等に向けた相続税・贈与税のあり方について、専門家以下会合を設置し、増井委員を中心に、準備してきた。

総会についても、各税目への議論に移っていくため、以前決めた通り、専門家会合で議論いただきたいです。

資料のとおり、相続税贈与税について、資産移転の時期の選択により中立的な税制のどのように構築していくかについて、様々な議論がされてきていると承知しているが、

相続税の課税方式について、現行の法定相続課税方式から、諸海外のような遺産課税方式や遺産取得課税方式への移行といった大掛かりな見直し議論は中期的な検討課題となる一方、

現行の課税方式において利用状況が低迷している相続時精算課税制度の使い勝手の向上を含め、資産移転の時期の選択により中立的な税制に向け、どのような方向で対応することが考えられるか、これは当面の課題として考えられるのではと思います。

なお、この相続税贈与税に関しまして、一部、近々、暦年課税が廃止されるのでは、110万円の基礎控除が使えなくなるのではと言う懸念があるようですが、そのような議論ではなく、理論的実務的なご議論をいただきたいと考えております。

投稿者: 小野寺 美奈

税理士。農業経営アドバイザー試験合格者。認定経営革新等支援機関。相続診断士。FP。 川崎市・東京多摩地方を中心にした、地域密着・現場主義。 税務の記事はご自身で税法を確認されるか個別に有料相談に来てくださいね。